■15 キンマ盤の謎
「それが歴史の裏でひそかに行われていたという、魔具死争の始まり……平和か破滅か、不幸か幸せか、神か悪魔か。最初はただの魔法道具の作り合いであったものが、いつしか側面になった……人間を極限の側面に堕ちさせるという……」
12班部署であった。鸛殻小人が卵殻で家を作りの、眠りの妖精が鏡に語りかけ自分が寝てしまいのと、いつものように妖精どもが騒がしく行き交っている。
「もはやグリカムの名が出た以上、美術品を装い特定の合言葉で機動する魔具にほかならない。白騎士の鎧も、赤騎士の鎧も、だ」
四人の報告を受けた、班長リリーが厳しく宣言する。
「この件に関して、我々がすべきことは解っているな」
フォル、ルーネ、アルベル、ファンテの四人が頷く。12班の裏の顔ともいってもいい、魔具の処理。いきすぎた魔具の歴史上からの抹消である。
「当面の問題はキンマの晩餐が何か解らないところだな。キンマと何なのだ」
リリーはずれ落ちそうになった眼鏡をなおし言う。あの真似っ子妖精四匹がそれを真似する。今回は眼鏡を用意していたので、妖精達はえっへんとかなりご満悦。
「キーツと名前が判明した女。偽名だという可能性もあり、その正体、目的も解らない。アッペテンが食べたという『豆』がキンマの晩餐なのか? 現れた奴隷印官はキーツ一味に拾われた存在と見ていい。はぐれとなっても奴隷印官は奴隷情報に通じ、奴隷を集めやすい。キーツはそれを利用……何故、子供達を血縁関係あるものと限定して集める?」
リリーは推測を言葉にし思索を深めようと歩き、何げなく窓際を眺めた。
窓の近くにはマーシャ像の手首が刺さった鉢、オーニング神像の鼻が刺さった鉢、そして新しく尻尾らしきものが刺さった鉢があったことに、リリーはずっこけかけた。
(……増えてる! ミャーネ像の尻尾の修理請求代とはアレか? ファンテめ~ぇ!)
遅れて真似っ子妖精達がずっこけの真似をする。リリーはファンテを睨みつけようとしたが、アルベルの巨乳が目に入って驚いた。
「セフィロナ君が新開発した桃真鱗のせいで、こんな姿に」
アルベルが自慢げにぷるりんこと巨乳を揺らし釈明し、真似っ子妖精達も大吃驚。
「アレか。それで麗しく、優美、華麗で、魔乳状態となった私も艶麗で良かったのだが……いかせん、書き物をするときに手があたってな。剥がしたよ……哀しかった……」
何故か右や左に胸を強調する変なポーズをしてから、リリーがしみじみと言う。
(班長……ためしたんだ……!)
と全員から視線を感じ、リリーは咳払いし、何事もなかったように続ける。
「……当面、我々はキーツ一味の確保を第一の目的とする。平行して、キンマの晩餐が何かを突き止め、できれば先手を打ち阻止するということになろう。手配の状況は?」
「今のところ、該当する集団は引っ掛かってないとのことです」
ルーネは真鱗データバンクである装置のボタンを押し、画面にでる被写体を横目で確認し言った。様々な可能性も考慮し、身元の確認は続いていた。
「このキンマ盤はなんなんだろう? キーツは何枚も集めている……」
アルベルが博物館から提出された、青いキンマ盤の写真を眺めた。
「お酒を置くための受け皿なんだよね。この青い丸印があるでっぱりがお酒の杯を置くところなのかな。ありゃ、数字がある……意味がわからない」
ファンテが写真を手に取り、目の前に掲げ、首をかしげる。
「アッペテンは神のレシピが書かれているといっていたな。数字は材料の分量だとか……ただの杯盤なら、集めんだろう……幾つかの部品が集まり完成する複合魔具とも考えられないか。このぎざぎざの部分が組みあわせるような……全部あわないな……」
苦笑めいていったフォルの言葉に刺激を受けたのか、ファンテが動きを止めた。壁に飾られた世界地図と掲げた写真がたぶる。
「組みあわせる……?」
ファンテが何かを思いつき、ハサミを手にする。
「……ファンテ? 何をしている? それは大事な捜査の品……」
リリーはファンテが写真を切りだした行為に言葉をさす。
「あのね。あのね。待ってください。全部切ってから説明します……ちょきちょき!」
ファンテは慌てて言い、写真を切り終えた。キンマ盤の形に切りだした写真を、ばんと壁の世界地図に押さえつけた。
「ほら、このきざきざのところ、ここ大陸の岸と合わさりそうなの」
「ファンテ君。全然、大きさがあってないよ」
「――"え!」
アルベルのひと言に、ファンテは目を大きくして驚いた。
部署内にかなり気まずい空気が立ち込め始める。騒いでいた妖精達すらしゅんと肩を落とす。ファンテは痛まれなくなって、切った写真をもぞもぞと合わせようとした。
「……なおして、お詫び申し上げます……」
「待て。キンマ盤が作られたのは“鋼鉄と魔術”の時代。あの当時の地図は確かイセル大巻地図だ。地図を用意しろ。博物館に問い合わせ、杯盤の原寸を聞きだせ」
リリーの指示のもと、慌ただしく準備が開始された。
用意されたイセル大巻地図が広げられる。ルーネが紙から原寸と作られた青色のキンマ盤を、いくつかの海岸にあてがう。
「ここがぴったり。この数字は高さなんかを表しているのかしら」
「でっぱりの先。青印のところはなにがあるの?」
「魔のシトゥラ空域。それも中心部、“シトゥラの風眼”だな」
フォルがファンテの疑問に鋭く答えた。
「昔からシトゥラの風眼にはエルピスの大宮殿や覇王の城があるとか色々な伝説がたえない。けど、台風の産地といっていい荒れる死の空だからいけないよね~」
アルベルが言うと、フォルが飛空眼鏡をコンと叩き、自分の机の引き出しを探りだした。一冊の本を取りだし、あるページを皆に見せる。
「こいつは台風や雲を撮った写真だけを扱う、通な本だ。この最新版にシトゥラの風眼、世界史上最大の台風が割れる怪現象という写真がある……雲っていうのは色んな形になるものだが……あまりにも、それが……」
イセルにはよくいる雲マニアのための本であり、ページには望遠で高く伸びる入道雲がど真ん中から徐々に割れていく、その瞬間瞬間の写真が数枚掲載されていた。
「見事に、真っ二つになっていくね」
アルベルが写真を見て頷き、リリーが反応した。
「それはいつの話だ?」
「二十三日」とフォル。
「飛空艦アンシャンボロでキーツ達に遭遇したのは二十四日。シトゥラの風眼で、その異変が起きたのは――一日前か……」
リリーがその言葉を噛みしめる。
「一日前……。なるほど! 帰りだったんだね! 私達がキーツさん達と会っちゃったのは!」
ファンテが意気揚々と手を叩き合わせ、リリーが指示を飛ばした。
「このキンマ盤は杯盤と偽装した宝地図だ! 至急、シトゥラの風眼に向かえ!」
捜査メモ。
隊長リリー、桃真鱗を試す。魔乳……。
次回、シトゥラの風眼→




