■13 ソティと謎の存在
「なんなのよ、これは!」
ソティは病室の番号『506』を見て、声を張りあげた。
まだ足の怪我は完治してない。でも治る前に、こんな所なんて早く逃げ出してしまおうと考え、ソティはすぐさま行動を開始していた。
壁に寄りかかり、ぎこちない足つきで、今度は逆の方向へ歩く。
「……また、506。どっちに行っても、同じ場所に戻るなんておかしいじゃないの!」
ソティは頬を膨らまし怒った。廊下は一本道。しかしどちらの方向へいっても、同じ病室の前に戻ってきてしまう。どこか不思議な空間をぐるぐると回っているようだった。
――うふふふふ……
可笑しそうに笑う声があった。
ソティは驚き、誰かいるのかと周囲を伺う。廊下の先は暗く見えない。
「誰? 誰よ!」
ソティはいい知れぬ恐怖を感じ大声で叫ぶ。またそれが反響して恐い。
――大人しく寝てなさいよ。
声が忽然と聞こえ、ソティは全身をびくっとさせ驚いた。
「うわ! なに? ど、どこに隠れているの! 出てこい!」
――どうせ見えないじゃん。
「お前が隠れているからだ!」
――気づかないのはそっちなのに、無理言わないで、金髪ちゃん♪
ソティは小馬鹿にされた言い方にムッとしたが、少し考えた。ベットの近くで寝ていた猫。サンダリオンという名の猫を思い出した。
「わかった。あの猫ね。あの猫が、あなたなのね!」
――きゃはははは! はずれ~。私が誰か解る? いけないわ、いけないわ。衝動にかられちゃう。自分の名前をいっちゃう。おっとと。これは私達の悪い癖。我慢我慢。はてさて、金髪ちゃんを惑わす、私はだ~れ~♪
「――お父様?」
――うえぇぇぇぇぇぇ!
今度は、声の主が驚き惑う番だった。
「お父様の声だ……」
――もう派手にズッコケタちゃったじゃないの! 顔すったわ。すりすりひりひりよ。不滅の塩のように確りして。私、金髪ちゃんのパパじゃないわ。ちょっと、どうしたの!
ソティは額を押さえ苦しんでいた。酷い頭痛が起きている。立ってられない。倒れこむ。
『――書く……ものは、あるか……? なければ……次の交信までに……』
ソティは別の声をきいていた。頭痛がやんだ。全身、脂汗だらけとなっている。
(書くもの……確か、あの仮面男が置いていったヤツがあった気がする……まだ声をきくだけで意識がなくなりそう……だから、書かせる……? あるわ!)
――誰と話しているの? 無視しないでよ! 寂しくって泣いちゃうよ!
ソティは足をひきずり自分の病室へ飛び込んだ。置いたままになった木炭筆を手にすると、床にぺったんと座り込んで待った。そして、異変が起きる。
ソティは白目を剥き、がくがくと痙攣しだした。
――ちょっと、ちょっと、なにかの発作! 誰か呼ぶ?
ソティの木炭筆を持った手が動きだす。自動手記。ソティの意志とは関係なく勝手に動いていた。床に文字がさらさらと書き終わり、ソティはぷっつんと糸が切れたように肩を落とし動かなくなった。数秒。意識が戻って、ソティは頭をふって、床の文字を見た。
『逃げる必要なし。流れに任せよ。シャーガル祭。贈り物。必ず受け取れ。豆を食べよ』
「豆。あの豆か……自力で帰ってこいってことか……」
ソティはつぶやいた。それから枕の裏で床の文字をごしごしと消していった。もうあの声はしない。あの声の主はそっと見ている。
妖精猫サンダリオンがふにゃとアクビをして、何事かと起きだした。その頭の上に声の主は居座って、じっと見ていた。じっと……。
謎の存在。
キーツ達にとって、妖精燕と骨なしの怪物は他の人間に知覚できず隠密行動できる強みであったが、それがいるゆえにソティを奪還できないのである。
もとより、12班の部署は妖精達のたむろするところ。
敵意をもった、怪しい妖精が侵入すれば、タコ殴りにあっていたであろうが……
謎のメモ。
同化現象開始。
シャーガル祭と豆。
次回、失われた物語→




