■09 大庭園博物館
大庭園博物館クドルルの中央入口には雷霆の女神ミャーネ像があり、イセル言語で『この尻尾には触っていけません』と書かれた看板があった。
ファンテはきょろきょろと辺りを窺う。その指先がくねくねと悩ましく蠢いている。
雷霆の女神ミャーネは芸術を司る神でもあり、美術関連の建物によく飾られる。狐耳と三本の尻尾が特徴的で、今まさに、その尻尾がファンテの餌食になろうとしていた。
「いくわよ」
「おわん!」
鈍い音とファンテの驚く声がした。
「とれちゃったよ~ぉ。突然、声かけないでよ~」
ルーネがファンテの手にある折ってしまったミャーネ神の尻尾をじろりと見る。
「遊ばない。いくわよ」
「ルーネちゃんもその辺の野良猫とねこにゃー、ねこにゃーって遊んでいたの」
「はて、なんのことかしら」
ルーネはいそいそと早歩きし、ファンテが尻尾を振り回し追う。
「誤魔化すんだ。ずるーい! 待ってよ! 待ってー!」
二人は美術館の受付で館長との対面を求めた。やってきた館長に案内され説明を受ける。
「キンマ盤はここに展示されてました。これが盗まれたキンマ盤の写真です」
館長がなにもない台座を示し、写真をルーネに渡した。写真には青色の筋があり、まるで銀杏の葉にそっくりな板が写されている。
「どう?」
「う~ん。私が見たの違う気がするの。小愉快さんがうきゃ♪ って落としたの赤だった」
「え? 別の場所でもキンマ盤は盗まれていたのですか?」
館長が声を荒立てた。ルーネが冷静に答える。
「はい。別の場所でも同じようなものを盗んでいます。赤色のは?」
「いえ、当美術館はこの青の色の一枚しか所有しておりません」
「このキンマ盤って何なのかな? そんなに価値があるものなのか?」
ファンテが首をかしげたのを見て、館長が口を開いた。
「これは杯盤です。酒席や晩餐で、酒杯を置くための敷物です。製作者が希代の芸術家グリカムなのです。だから盗まれたのでしょう」
グリカムという名を耳にし、ルーネとファンテは神妙な顔つきとなった。
「ルーネちゃん……このキンマ盤って……」
ファンテがルーネにこそこそと耳打ちした。
「――魔具 。魔具の可能性が高いわね」
(グリカム。表では芸術家。しかし、その裏の顔は本当に魔術師。このキンマ盤は魔導を駆使し作られた魔具の可能性が極めて高い……あの白騎士の鎧も!)
「悪い方のグリカムかな? 創設者の方のグリカムかな?」
「解らないわ。歴史上、グリカム作品は全てひとりが作ったものと認識されているから」
「それにしても驚きました。もう一枚あったとは……」
館長が感慨深く呟いた。ルーネが怪訝な顔をしたので、館長は気づき説明してくれた。
「全部で三枚あることになるんです。緑のキンマ盤をアッペテン氏が所有しておられます。是非とも、当美術館に寄贈してほしいと頼み込んだのですが……無理でした」
「あららららん♪ アッペテンさんは……」
ファンテが人差し指を立てた両手を左右にふりふりし、ルーネが答えた。
「アンシャンボロのオーナーね」
捜査メモ。
ファンテ、相変わらず触ってはいけないもの触る。
ルーネ、猫好き。にゃあ。
謎の板はキンマの杯盤。三枚あり。
フォルがスリ犯を追っていた場所――豪華客船アンシャボロ。その豪華客船のオーナーであるアッペテンがキンマ杯盤一枚を所有。なにか線が繋がってきた?
次回、アルベルの巨乳乱れると、アンシャンボロオーナーとの対面→




