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第四章:孤児院の少女

蒼く澄んだ空。爽やかな風。色とりどりの草花の香り。鳥たちの(さえず)り。

ここ1週間、目を覚ませば当たり前のように感じていたそれら。そして、今日も感じる(はず)だったそれら。

しかし、何故かそれらを感じない朝を迎えた。

「……此処は?」

目を開ければ一面青空の筈が、何故か見慣れない天井。適当に作った寝床は、久々のふかふかベッド。

風も香りも感じないそこは、明らかに”室内”だった。

何故、こんな所にいるのか。昨夜も俺は野営(キャンプ)だった筈…。


取り敢えず記憶を辿ってみようとした時、丁度良いタイミングで部屋の扉がゆっくりと開く音がした。

「…ん?誰だ……?」

少し警戒しながら音のした方を向くと、そこには1人の少女が立っていた。

その少女は俺を見るなり、物凄く安心した顔で駆け寄ってきた。

「あぁ良かった…、目を覚まされたんですね。本当に良かった……」

慈悲深く微笑む少女に、俺は久々のフラグ建立の音を聞いた気がした……―。


…って!何勝手にフラグ立てちゃってんの?!これそういう話じゃねぇだろ?!

いつか”フラグ建立士”なんて称号(マイスター)を手に入れそうで怖い…。

「あ…あの……?大丈夫ですか……?」

「え、あぁ、ごめんごめん。もう平気」

心配そうに訊ねてくる少女に、我に返って答える俺。…何かカッコ悪……orz

しかし、そんな俺に何一つ嫌な顔せずに少女は言った。

「良かった…。本当に心配したんですよ?」

おまけに小さく首を傾げるというオプション付きで。

「っ…………!!」

なんて可愛い()なんだぁ!!いや、もう天使だろ?!天使が舞い降りてきたぁぁぁ!!!

あまりの可愛さに身悶える。……もう少しで口に出すとこだった。危ない危ない…。

「あの…?本当に大丈夫ですか……?」

困惑した表情で狼狽(うろた)える姿も可愛くて…、マジで卒倒しそうだった。勿論良い意味で。

…これ以上は止めておこう。話が進まなくなる。

「えーっと、此処は一体?」

俺は前から気になっていたことを少女に訊いてみた。

窓の外を見る限り、辺りは一面草原で、町中(まちなか)の宿とかではなさそうだ。

「あぁ、此処は孤児院です」

少女は微笑みながら答えた。

孤児院―、その名の通り、身寄りのない幼い子供を保護、養育する施設。

俺の村には孤児なんて1人もいなかったから、勿論孤児院なんて無かった。

そんな俺が、何故此処に居るのか。

そんな疑問が顔に出ていたのだろう。少女は続けて答えた。

「フォルシア草原で倒れられていたので、此処へお連れしたんです。

低レベルとはいえ、夜になれば魔物(モンスター)は活発に動きますから」

まぁ確かに、夜の方が魔物は強くなる。それに今は何故かは解らないが、魔物が狂暴化している。

夜に出歩くのは流石に危険だ。だから俺は野営をしたんだ。

野営をして火を焚けば、低レベルの魔物なら寄っては来ない。フォルシア草原程度なら、襲われる心配はないだろう。

だけど、少女は俺が倒れていたいたから此処へ連れてきたと言った。俺の知らない間に魔物に襲われたのか?いや、それは流石に気付くだろ。どんだけ鈍感なんだよ、俺。

念のために意識してスルースキルも発動させていたのに…。もっと慣れなきゃ駄目なのか?

そんなことを考えていると、少女は訝しげな表情をして言った。

「でも…、変なんですよね」

「…ん?変って何が?」

「えっと…、見た感じ駆け出しの冒険者のようですので、魔物に襲われたのかと思ったのですが…。

―外傷が何処にも見当たらなくて…」

その言葉に、自分の身体を見てみる。確かに傷1つ無い。やっぱり襲われたわけじゃなかったんだな。

「一度声をお掛けしたんですけど、返事が無くて…。急いで此処へ運んだんです」

その少女の言葉で、辻褄が合う。なるほど、だんだん解ってきたぞ。

「因みに…、俺を見つけた時間は?」

「え?えっと、正確には判りませんが…、かなり暗かったので真夜中くらいかと…」

真夜中…ねぇ…。道理で記憶が無いわけだ。

「あの…、心配させちゃってごめんね?」

「いえ、困った時はお互い様。助け合うのが当たり前です!」

握り拳を作って訴えてくる少女。うわぁ、言い辛い……。

そう、此処までの話で何となく解った奴もいるかもしれないが、俺は魔物に襲われてなどいない。

俺が倒れていたと少女が思ったのは…、俺が爆睡していたからだ。それ故少女の声は聞こえず、返事は寝ていて出来なかった。

そして少女は俺を駆け出しの冒険者だと判断して、その場に置いて置くことは出来ずに此処まで連れてきたというわけだ。

……何か、本当にすいません。


その後、俺は少女に本当のことを話した。

敬遠される覚悟だったけど、少女は最後まで何も言わず聞いてくれた。

「本当にごめん。心配してくれてたのに…」

「そんな、謝らないでください!勘違いした私の方が悪いんですから!」

慌てて弁護する少女。最後の最後まで良い子だ…。なんか泣けてきた。

俺が感動を覚えていると、扉の向こうから声が聞こえてきた。

「マリお姉ちゃん、お腹空いたよぉ~…」

か細く発せられたその声は、今にも消えてしまいそうなほど弱々しかった。

「あぁ、ごめんね。直ぐに行くから」

少女はそう言うと、俺に向き直って申し訳なさそうに言った。

「すいません。子供たちを待たせているので…」

「え、あぁ。俺の方こそ引き留めちゃってごめん」

一礼して部屋から出ていく少女。そりゃあそうだよな。此処は孤児院で、まだ幼い子供も沢山いるんだよな。

世界が一見平和そうに見えるのは、そんな慈善活動をしている人たちがいるからなんだよな。

これ以上此処にいても迷惑を掛けるだけだ。あの娘には悪いけど、黙ってお(いとま)させてもらうとしよう。

簡単に荷物を纏めて窓を開ける。幸いなことにこの部屋は1階で、此処からでも出られそうだ。

片足を掛けて、一度部屋を振り返る。心残りを言うとしたら1つ。

「あの娘…、可愛かったなぁ…」

あれはマンシーちゃんとはまた違った可愛さが…って此処まで来て何考えてんだよ俺っ!!

頭の中の雑念を全て振り払う。今は無になる時だ。

「それじゃ、元気でな」

誰に言うでもなく、外に出ようとした―その時。

「待ってくださいっ!!」

タイミング良く開かれた扉と聞こえた声。そこに立っていたのはさっきの少女だった。

少女は外に出ようとしている俺を見つけると、慌てて引き留めてきた。

「うおっ!!」

急に腕を引かれてバランスを崩しかけるけど、何とか持ち堪える。

「お願いです。待ってください」

そう言った少女は、何処か悲しげな表情をしていた。

いや、確かに黙って出ていこうとした俺が悪いんだけどさ。

これからどうしようと考えあぐねていると、少女が静かに口を開いた。

「せめて…、今日1日だけは泊まっていってください…」

「えっ……」

俺がいては迷惑だとばかり思っていたものだから、その少女の言葉は意外なものだった。

「急いでおられるのは解っているんです。ですが、どうか…」

確かにそろそろ次の町へ行こうかとは思っていたけど、それほど急いでいたわけではない。

少女が俺を留めた理由(わけ)も気になるので、俺は頷いた。

「解った。迷惑でなければ…、お世話になろうかな」

「そんな!迷惑なんかじゃないです!」

少女は慌てて否定の意を示すと、何かを思い出したように声を漏らした。

「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね」

「あぁ…、そういえば…」

さっきまでいろんなことがありすぎて、全然頭になかった。

「では改めまして…。私はマリア、マリア・システィアです」

「俺はユウ、ユウ・ドラルシアだ」

「ユウさん、ですね。宜しくお願いします」

少女、もといマリアちゃんは笑顔で握手を求めてきた。

可愛い上に健気(けなげ)で優しい娘だ……。

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