第二章:旅立ちの日
時は流れ…、遂にこの日がやってきた。
「よし、そろそろ行くか」
荷物を持って家を出ようとすると、母親に止められた。
「ユウ、あんた本気だったの?」
「本気も何も、ずっと考えてたことだからな」
止めても無駄だぜ。俺は勇者になるために生きてきたも同然なんだからな。
「あら、嘘だと思ってたわ。そう、行ってらっしゃい。あ、帰ってくる時はお土産宜しくね」
止めるどころか土産の催促までしてくる母親。どうせ1人分の飯代が浮いてラッキーだとしか思ってねぇんだろうな。
あれから俺は仕事(草むしり)の合間を縫って修行を積んできたけど、肝心の能力や技術は何一つ覚えず、そして何故かLvは0のままだった。
婆ちゃん曰く、「幼い頃から病弱だったことが原因」らしい。
母親にはもう少し丈夫に産んでほしかったぜ…。まぁそれで諦めるような柔な男じゃないけどな、俺は!
「じゃあな。当分は戻らねぇと思うから」
「戻って来なくて良いわよ。あぁ、サカキさんには一言言ってから行きなさいよ」
サカキさんっていうのは定食屋のおやっさんの本名だ。マンシーちゃんには最後に会っておこうと思ってたから、ついでだ、ついで。
にしても、仮にも実の息子が旅立つってのに最後まで心痛だな。普通、母親なら言わねぇだろ。
「おーっす」
「よぉ、らっしゃい。って何だ、ユウか」
「何だとは何だ。一応常連だぞ」
マンシーちゃん(ついでにおやっさん)に会うために定食屋に行くと、中はおやっさん1人だった。
「つーか、おやっさん。マンシーちゃんは?」
「彼奴なら買い出しに出掛けたぞ。…ん?お前まさか…、俺の愛娘に気があるんじゃねぇだろうな……?」
包丁を持ったまま睨んでくるおやっさん。だから理不尽!確かにフラグを立てたことがあるのは認めるけど!
「まぁ、冗談だけどな!」
にししし、と悪戯っ子のように笑うおやっさん。…冗談きついっす。
「今日も食いに来たんだろ?」
そんなおやっさんの言葉に、此処でのんびりしている暇が無いことを思い出す。
「いや、今日はちょっと挨拶にな」
「何だ?急に改まって…。まさか!お前本当に…!」
「いやいやいやいや、それは無いから大丈夫だって」
このままではマジでおやっさんに殺されそうだったので、そこは全力で否定しておいた。
…まぁ、あわよくばそういうことの1つや2つ……。いや、何でもないですごめんなさい。
「俺、今日旅立つんだ」
「………は?」
ドヤ顔で言ってやったら固まられた。解せぬ。
「え?今日って4月1日だったか?」
「エイプリルフールじゃねぇし、嘘じゃねぇから」
果ては嘘つき大会(エイプリルフール)と勘違いする始末。おやっさん、俺の扱い酷くね?
それに、たとえ今日が4月1日だったとしても、俺は嘘なんてつかない。勇者(予定)たる者、常に公私共に正直でなくてはならない(勇者マニュアル参照)からな!
「けどよ、そんな軽装備で行くのかよ。荷物だって少ないし」
「そんな大荷物で行っても、邪魔なだけだろ」
そう、今現在の俺の装備は至ってシンプルなのだ。
いつも着ている麻の服に、下はズボン。足にはサンダル。武器はその辺に落ちてた剣(木の枝)。荷物は必要最低限の薬草や食糧、そしてお金。
無駄という無駄を省いた、シンプル・イズ・ザ・ベストな軽装備だ。
「そう言うけどよ、何故かここ最近で魔物が異常に狂暴化してるらしいし、もうちょいマシな装備にした方が良いんじゃねぇか?」
見た目に反して結構心配性なおやっさん。意外な一面だな。
「今更新しい装備なんて買う余裕も金も無いし、俺にはスルースキルがあるから大丈夫だ」
まだまだ弱い内は様様な、俺の独自能力。要らないとかゴミ箱にポイとか思ったりしてごめんな。
「何だそりゃ。お前、変な技持ってんだなぁ」
おやっさんが何か言っていたけど、俺はスルースキルを発動して聞き流した。あ、こういう使い方もあるのか。
「そんじゃあ、そろそろ行くわ」
マンシーちゃんに会えないのは残念だけど、いつまでもこうしてのんびりしているわけにもいかない。
次に会う時には、勇者になって逞しく成長した俺の姿を見てもらうことにしよう。
「おう、達者でな。あと、偶には戻って来いよ」
背中を押して送り出してくれるおやっさん。だけど悪いな。俺は当分、村には戻らねぇって決めてるんだ。
たとえ、おやっさんの頼みだろうと、俺にはやるべきことがあるんだ。
「うちの常連が減っちまうのは痛いからな~」
けらけら、と笑いながら言うおやっさん。…その一言が無ければ、純粋に良い人だって思えたのに。
1日遅れだけど、少しだけエイプリルフールネタをぶっこんでみたというお話。
え?!ぐ…偶然なんかじゃないよ!!全部計算だよ?!