第一章:唯一の理解者
そんな理不尽で可哀想な俺(そこ!自分で言っちゃうんだ、とか言わない!)にも、たった1人だけの理解者がいる。
心を許して何でも話せる、そんな人。
そこまで聞けば仲の良い友達だと思う奴もいるだろうが、そうではない。
その理解者とは、ロゼア・ドラルシア。俺の祖母だ。
かと言って仲の良い友達がいないわけじゃないぞ。そこだけは勘違いすんなよ!
「婆ちゃん、ちょっと良いか?」
「おや、ユウ1人かい。よく来たねぇ」
「俺だってもう子供じゃねぇんだし、隣村くらい1人で来れるわ」
「そうだねぇ。ユウは勇者になる男なんだから、そのくらいは出来ないとねぇ」
不満気に言うと、ばぁちゃんは柔らかく微笑んでそう言った。
婆ちゃんは半年ほど前、俺達の故郷、フォルア村の隣村、レシータ村に越して来た。隣村と言っても、子供の足じゃ半日はかかる。
俺は餓鬼じゃねぇから3時間もあれば楽勝だけどな!…え?遅い?これくらい普通だろ。
何でも、この村の名産品であるレシータビーンズは身体に良いと評判で、遠方からも観光客が後を絶たないらしい。
婆ちゃんもそのレシータビーンズに惚れ込んで、移住にまで至ったというわけだ。
まぁ俺には普通の豆にしか見えないけどな。
「なぁ、婆ちゃん。相談があるんだけど」
「判っておる。能力と技術のことだろう?」
うおっ!婆ちゃん、いつの間に読心術なんか身に着けたんだよ。…吃驚したぁ。
「お前が考えていることなんて、全部お見通しなんだよ」
「とか言って、能力使ってるだけだろ」
「おや、バレてたのかい」
ほっほっほ、と和やかに笑っている婆ちゃんはお見通しという能力を持っている。
物理的なダメージは無いけど、思っていることが全て読み取られてしまうため、精神的には痛い(地味に)。
とにかく厄介なことには変わらない能力だ。
「それでユウ、本題だがねぇ…。確かに能力と技術は冒険者になる上で必要不可欠だ」
婆ちゃんは真剣な表情で、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
それは俺だってちゃんと解ってる。けど、どっちも俺は持ち合わせちゃいない。
「だからと言って、諦めてはいけないよ。ユウにはもっと素晴らしいものがあるじゃないかい」
…素晴らしいもの?何だよそれ。というか諦めてはいないぞ。
「解らないのかい?ほら、自分の基礎体力をよくご覧」
婆ちゃんに言われて見てみても、何ら変わらない平凡な基礎体力だ。
強いて言えば、独自能力があるくらいで…。
「そう、独自能力。ユウにしかない、素晴らしい能力だろう?」
「うおっ!急に話し掛けるなよ!つーかお見通しすんなよ!」
吃驚しすぎて死ぬかと思った。これ絶対寿命縮んだな。婆ちゃんは和やかに笑ってるし…。
というか、褒めてんのか貶してんのか判んねぇぞ。
「勿論褒めてるに決まってるじゃないかい。素晴らしい能力だと思うよ」
「だからそれが貶してるように聞こえるんだって」
第一、ポジティブ思考とかスルースキルとか絶対要らないだろ。使い道何処だよ。直ぐにゴミ箱にポイだろ。
「そうやって己を卑下する者は、なれるものにもなれないよ」
うぐっ……、婆ちゃんは何処までもお見通しってか。
まぁ、そうだよな。もっと強くなれば、可能性だって無くは無いし(実際、LV.0だし)。
「そうそう、その意気だよ。その独自能力にはまだまだお世話になりそうだねぇ」
俺は何故か、よくネガティブ思考に陥ってしまう傾向にあるらしい。
婆ちゃんの言う通り、ポジティブ思考(ついでにスルースキル)にはもう暫くお世話になりそうです。