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エピローグ マリコマイラブ!

お店に戻ると、いつものにぎやかさが僕を迎えてくれた。今日はアッコとユキちゃんの当番日。

相変わらず学生さんや、航空自衛隊の入間基地の隊員さん達が来てくれてた。

アッコのぴちぴちですれすれのミニスカートと、ユキちゃんの長い黒髪が男性客をひきつけてくれてる。

ユキちゃんはケンとはすっかり切れたみたい。でも前よりしっとり感が出ていてなんか大人の雰囲気。一つの恋を経験して一皮むけたみたい。

「ママお帰んなさい」って言う言葉にも、ちょっとした女らしさが自然ににじみ出てきてる。高校生だけど妙に色っぽいの。

そういえば前田のおじいちゃまが言っていた。「失恋は人生の反面教師」って。

つらいけどその人を成長させてくれるのよね。ユキちゃん見てると僕もそう思う。すごいねユキちゃん。

若いお客さん達が、僕にも声をかけてくれるので話し相手になったりする。いつも通りっていいものね。

なんでもない日常って大切よね。今日はやけにそう感じるの。不思議としんみりしちゃってるの。

夕方、ミドリが陽児君を園から連れて戻ってきた。陽児君はケイコちゃんとふたりでまたミドリのところにお泊りするんだって。

(いつもありがとね、ミドリ・・・)

その夜、啓治君がいつもの時間帯に店に顔を出した。

「やぁ、今日はホントにすごかったね」

そう言いながらカウンター席に着いた。

「啓治君もいろいろお疲れ様でした。おかげでうまくいったわ」と僕もお礼を言った。

「うん、あれからかなえは留置されて取り調べを受けたんだけど、落ち着いた様子で淡々と話してたよ」

取り調べ自体は、啓治君でなくもっと上の人が担当したんだって。

世間の注目を浴びた事件だけに警視庁も全力ってとこらしい。

「でもね、孝子が一度は息を吹き返してたとはね・・・」と啓治君、感心しきり。

「そうね、そのことばっかりは前田さんが認めなければ証明できなかったけどね。僕の勘にすぎなかったんだから」

「えーっ、そうなの。てっきりなにか根拠があるのかと思っていたよ」と、驚いたように言う啓治君。

「うふふ、このみが夢中で首絞めたからって、女の力でそんなに簡単に殺せないような気がしただけよ。ただの推測なの」

「ふーん。でも、それも才能の一種だよね。小学校のころからマリコ、なにか違ってた様な気がするよ」

「今回はたまたまよ。かいかぶらないで」って僕。啓治君はそうかなーって顔してる。

「でもよかったわ。これでかなえもふっきれてくれれば、罪をつぐなってやり直しはできると思う。刑は何年ぐらいになりそう?」

「殺人罪は重いよ。殺人教唆は主犯格だからね。でも今回のことは情状酌量されるところもあるから、そうさねぇ10年ぐらいかなぁ」

でも真面目に勤めれば1、2年ぐらいは早まることもあるんだって。そうなればいいねって僕は言った。

「マリコはやさしいよなぁ」って啓治君。

「そんなことないよ。ふつうだよ」って、僕は少し照れちゃった。

でも啓治くん、いつになく真剣な顔で「マリコはなんか違ってる」って言うの。ほかの人とは違うって。

確かにね。僕ってなんか、みんなが言う「考える」ってのはいつも意味が違うような気がしてた。

物事を整理したり、意味を知ろうとするとき「考える」って気がするけど、感じたり気が付いたりする時って、考えるっていうより閃いてるって気がするの。

日常のほとんどが、この閃きで行動してる感じがする。だから僕はいつも自分の「勘」を頼りに生きてるんだ。そこが僕の特徴かもねって言ったの。

「ふーん、そうだよね。下手な考え、休むに似たりって言葉、確かにあるよね」って、啓治君。

うーん、言ってる意味この場合あってないような気がするけど、ちょっとずれるところも啓治君らしくていいかなぁー。

僕が小瓶のビールをコップに注いであげると、おいしそうにこくりと飲んだ。「おいしい?」って聞いたら、「うん、おいしい」って、ニコッと答えた。

「とにかくマリコは特別だよ。特に僕にとってはマリコはスペシャルさ」だって。

本気(まじ)に僕の目を見つめて言うの。なんか、そのスペシャルって響きが気にいっちゃった。

それに啓治君、妙に男っぽい。ドキリとしちゃうよ。

「ありがとう」って言ってにこりとしたの。

すると啓治君、いやぁーって照れてた。二人笑いあって、僕のコーヒーと啓治君のビールで乾杯した。と、その時いきなりお店の戸をあけてたかし君が入ってきた。

なんか血相を変えてって感じでいつもと違う。僕も啓治君も一瞬きょとんとした。

「マリコ、こいつ誰?」って、語気荒く聞いてくる。いつもなよっとしてるたかし君とは別人みたい。黒の皮ジャンもどきのジャケットとジーンズで強そうに見える。たかし君には、そういうのあんまし似合わないけど・・・。

そうか、たかし君は啓治君とは初めてだ。それと、なぜだかなにかを勘違いしてる雰囲気。

「幼なじみの啓治君」って、あわてて紹介した。それから啓治君にも、うちのたかし君よって教えたの。

「啓治と言います。たかしさんですか。いつもお世話になってます」

でも、たかし君はまだ興奮してるの。

「お、おまえ。いつもお店の終わりごろ来て、なに話してんだ」って啓治君をにらむの。

「ち、違うよ。何言ってるの!」って、僕あわてちゃった。

「あっ、これは失礼。別に変なことじゃなく、えーっと、いろいろ打ち合わせみたいなことで・・・」と啓治君も急いで説明しようとするけど、簡単じゃないよね。言葉がつまっちゃった。

「打ち合わせ?なんだぁーそれ!」ってたかし君、今度は僕の方を見る。

「たかし君どうしたの?いきなり・・・。とにかく座って」って僕。

ともかくなにか誤解してるたかし君をおちつかせなくちゃー。

「すみません。いつも遅くにおじゃましてー」と啓治君もさかんに謝ってる。

「そんなにいつも、なに話すことあるんだよ」と、たかし君むくれてる。そうか、いつになくたかし君、僕のこと心配してくれてるのかも。その上やきもちだったりしたら、的外れっぽいけど、僕うれしくなっちゃった。

「ごめんね。実は今回ある事件に首突っ込んで、それでいろいろとね、打ち合わせしてたのよ」

はーん?って顔で、たかし君ようやくイスに座ったの。僕と啓治君二人で交互に説明したの。

「へぇー」ってたかし君、本当にびっくりって顔をした。

「じゃぁ、あの花咲このみの事件。二人で解決したんだ」

まだ半信半疑って感じで聞いた。

「そうなの、すごいでしょう。お手柄なのよ」

「そうなんです。マリコさんのおかげでずいぶん助かったんですよ」

「そんなことないってばぁー」って僕。

たかし君まだ信じられないって顔だけど、とにかく啓治君との誤解は解けたみたい。

「すんません、勘違いしちゃって」って、啓治君に素直にあやまってる。

「いえ、こちらこそ。挨拶遅れてご迷惑かけちゃいました」と啓治君も頭をさげる。

でもなんか、たかし君が僕のために必死だったって感じで、僕はジンときちゃった。

「たかし君、すっごい顔してたよ」って言うと「いやぁー」って、頭かくの。

でもうれしかったんだよ、たかし君。

「これからもきっとマリコさんにはお世話になると思います。どうぞよろしくお願いします」って、啓治君が改まって言うの。「こちらこそ」って、かしこまって言うたかし君。おいおい勝手に二人で決めないでよーって言ったら、二人して僕の方見て「これからもよろしくお願いしまーす」だって。まったくもうー、だわねほんと。

僕のそんな気持ち関係なく、男たち二人、ビールの小瓶で「かんぱーい」って盛り上がっちゃってた。


早いもので、街角にジングルベルの音楽が流れ始める季節になっていた。ケンはあれから店に顔出さなくなっていた。慶応ボーイはなにしなくてももてるから、特にケンは女の子がほっとかない感じだから、今頃どこかの可愛い女の子と仲良くやっているような気がする。

その代りって言ったらなんだけど、洋一郎君が時々顔を出すようになった。だけでなく、フロアーに出てボーイさんみたいなことやってくれるの。

「僕こういうの、ホント憧れてたんです」

上流家庭の洋一郎君は、親からアルバイトを禁じられているんだって。もちろん学校も私立の有名校だから、バイトを認めるような学校じゃない。それでこれまでアルバイトって言うものをやったことが無いみたいなの。だからこの店で、エプロンつけてバイトの真似事するのがとっても楽しいんだって。

「だからボランティアでいいんです。ママさんこれからも時々お手伝いさせてください。お願いします」

バイト、バイトで暮してきた僕から見たら、いいとこのお坊ちゃまってそうなんだぁーって感心しちゃったぁ。だからってまるっきりただでは使えないよ。お小遣い程度のものは渡さなくっちゃねぇ。労働してお金をもらうってことも知っておかなくちゃぁー。

世田谷からだから月に一度程度だけど、エイコちゃんの当番日にやってきていろいろ手伝ってくれる。そういう時のエイコちゃんって、とっても嬉しそう。

ホント二人はとても仲良しで、見ていてほほえましいの。こっちとしては、お小遣いと軽食をごちそうするだけで一生懸命働いてくれるので結構助かる。

だって上品で優しい顔立ちの洋一郎君は、女性客からの人気があって、結構お客さんを増やしてくれるんだもの。ご本人が思っている以上の貢献だわ。

かといって、繁盛しているようでお店っていろいろ出費もあってそんなに儲からない。毎日のやりくりが大変。貧乏ひまなしって感じで忙しくやっているの。

たかし君も相変わらずで、収入伸びない。そのこと当の本人はちっとも気にせず、のんきにやっている。つまりあんまり頼りにならない。陽児君だけがすくすくと育ってくれて、僕の希望の光になってくれている。

そんなこんなでいよいよ年の瀬も押し迫った頃、思いもかけないことがあったの。

なんと警視庁から連絡がきたの。

表彰と謝礼があるので来てほしいって。午前10時に桜田門警視庁の警視総監室だって。なんかすごいって感じ。

警視総監直々に渡したいんだって。逆に困っちゃうよね。でも晴れがましい気もするのでウキウキしちゃった。お店のみんなもうわぁーって喜んでくれた。

大人っぽくベージュのワンピースに大きめのバックル。黒のハーフコート。黒のブーツ。ゴールドのネックレスで、髪の毛はおとなしめのストレートパーマ。20代後半には見えるかしら?

7時59分の急行に乗って(ぶく)()方面へ。相変わらずの満員ぶり。お勤めしてた頃のこと思い出す。

「あれ」って、思ったの。この感触。あー、やっぱり。あの青白い顔のサラリーマン風の男が僕の後ろに立っている。

前とおんなじ。もういやだぁって、思ったけど今日はもうドキドキしない。むしろ「なによ」って強気な感じ。

そう、もう僕は以前の僕と違うの。ずいぶんとたくましくなっている。前は必死に逃げてたけど、今日は違うよ。

僕はいきなり後ろを振り向いた。いきおいその痴漢君と向き合う形になる。

痴漢君、びっくりしたような顔。僕は目をそらさない。戸惑ったような顔をする痴漢君。

「言っときますけどね」って僕。真正面からはっきりと言った。

「何人の女の子にそうやって後ろから付け回したか知りませんけど、みんな迷惑なんです」

男は「うっ」と声をもらすが、無言のまま。

満員の人の目線がこちらに集中する。

「以前も、私の後ろを付け回したでしょ。ほんと困ります。もうしないでください」

きっぱりと言い切った。車内がざわつくのがわかる。青白い男の顔はますます蒼白になる。

「はっ、はい」気圧(けお)されたようにその痴漢君。のけぞるような感じで、かすかに返事した。僕はその男をにらんだまま姿勢を崩さない。困ったようにもじもじする痴漢君。

「ちゃんと言いなさいよ」と、僕はさらに追い打ちをかけたの。

「あっ、も、もうしません。すみません」って、か細い声でつぶやいた。

僕はそれを聞いてくるりと前を向いた。そのままの姿勢で吊革につかまっていたの。

電車が次の駅に滑り込んだ。痴漢君は、満員の人をかきわけて必死に降りていった。

ざまぁみろ!ついに痴漢を撃退したぞって、胸の中で叫んだ。

すると近くの年輩の女性の人が「あんたよく言ったねー。えらいよー」って、声かけてくれた。僕はそれでほっとした。緊張が少しほぐれた。

それから何人かの人が声をかけてくれて誉めてくれた。それが車内中に伝わって、なぜか拍手が沸き起こった。

初めはぱらぱらって感じだったけど、しまいには車内中が拍手で沸き返ってしまった。

僕は照れくさくて困ってしまったけれど、頭をぺこぺこさせて感謝の気持ちを表した。

池袋で降りたときは、何人もの人が挨拶して立ち去って行った。なかには感激したって、わざわざ握手をもとめてくる人までいたの。

照れながら僕も両手でその手をにぎり返したりしちゃった。

ささやかな僕の行動を多くの人が誉めてくれた。なんかとてもうれしい。

今度の事件で無我夢中でいろんな人と対決したけど、いつのまにか僕自身が強くなっていたのね。

ありがたいこと。ものごとなんでも体当たりね!。

「やったねマリコ!マイラブ」って、一人心で叫んでた。





             了


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