表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神さまに逆らうな!  作者: つなかん
四章 臓心ノ黒
46/53

6 行通側片

 こんなにも強い眠気は久しぶりだ。目の前の景色は霞んで見えるし、頭の中では虫の羽音に似たひどい耳鳴りが続いている。

 瞬間移動した気分はいつになっても慣れないが、しかしそれでも自分がこんな狭くて薄暗い部屋にいる理由は、なんとなく想像がついた。

「君、さすがに人殺すのはダメだよ」

 いくら未成年だからって、と陽気な声が聞こえていよいよ観念する。どこか冗談混じりで話しかける警官は、気を使ってくれているのだろうか。

「すいません」

 頭を垂れると、そのまま額が机に衝突した。耳鳴りが、少しの間静かになる。

「え?」

「まさか本当に保険金事件で片付くとは思わなかったんです。捕まることはある程度覚悟してました」

「えーと。それは、どういう……」

 予想外の警官の反応に、顔をあげると、困惑した表情が見えた。

 意味が分からない。驚いているのはこっちのほうだ。でも、とにかく話したほうが良いのだろう。

「一度しか言わないので、ちゃんと聞いてください」

 丸めた背中を正し、パイプイスの背もたれに預ける。部屋を包む淀んだ空気にため息をついた。

「平成二十三年の、多分八月の後半です。凄く暑い日で、その日は補習が思ったより早く終わって、バイトの予定もなかったので家にいました。父は午前中は家にいたけど、午後からはどこかへ出掛けてました。夕方だったから四時過ぎくらいだと思います。ナントカ金融とかいう人が来て……居留守を使っていたんですけど、なぜか入ってきて……それで、いいバイトを紹介するって言われました。何回か、オレオレ詐欺みたいたことはやったことがあったので、やってみようと思いました。それで……えっと、その、本当はタコ部屋なんだけどビデオでもいいって言われました。……断ったら、撮影のほうをやれって言われて、それならいいかなって思って、そしたらスナッフビデオを撮れって言われて、よく分からないんですけど、女の子を探して来いって言われました。夏休みだったし、わりと簡単に見つけられました。それで、まぁ、色々と」

「色々?」

 高橋がとうとうと弁じてゆくうちに、警官の表情はどんどん強ばっていった。彼はそんな風景をぼんやりと眺め、欠伸を噛み殺した。

「未成年だから大丈夫と言われて、お腹空いてたからちょっと切って食べて、箱に入れました」

 そう言ってから、少し考え直すように目玉を左右に運動させる。

「あー、いや。箱じゃなくて、スーツケースだったかも」

 右の頬を人差し指で掻きながら話す言葉は、気だるさを帯びていた。

 警官はそんな彼の様子と、話している内容との乖離に違和感を覚えつつ、慎重に言葉を発した。

「食べたって……何を?」

 逸らしていた視線を警官に向けると、およそ好意的でない暗い目線で受け止められた。

「味はまぁ、そこそこでした。食事は本来、楽しいことではないものでしょう? 死体を口の中でぐちゃぐちゃにして、べちゃべちゃにして他の死体と一緒に混ぜて。人間の死体だけ、特別食べられないものってわけじゃあ、ないですよね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ