5 ンョジィヴルネント性校高
気がつくと、知らない風景に囲まれていた。ひどく殺風景な部屋。自分の座るパイプイスと、目の前の細長い机。その机を挟んだ向こう側には厳めしい顔をした刑事が座っている。部屋の隅に視線を移すと、制服を着た警察官がパソコンに向かっていた。
「えーと、ここどこ? 警察?」
椅子を引こうと試みるが、固定されているため動かない。仕方がないので慣れない体勢で頬杖をついた。
「何言ってるんだ? いいから質問に答えろ」
取調室にいる理由すら分からない高橋は困惑した。今までの経験からすると、お茶を濁すのが適切なのだろうが、さすがに警察相手では躊躇する。
「えーと、おなかすいたなぁ、カツ丼とか、でないの?」
「素直に答えたら出前取るから……。じゃあ最初から言うぞ、名前と年齢と職業は?」
これってもしかしたら本格的な取り調べなんじゃないか? 刑事さんなんか怖いし、俺なんか疑われてる? 修学旅行、行けないじゃん。折角貯金してたのに……。あ、そういえばあれは親父に取られたんだっけか? いや、もしかしたらアレがバレたのかもしれない。だとしたら大変だ。非常にマズい。
様々な思いが頭を駆け巡ったが、刑事の苛々とした咳払いで我に返る。
「名前は高橋広海、十六歳、職業は……高校生、でいいの? 今二年。一応仕分けのバイトやってる」
高橋の返答に、刑事は言葉を続けた。パソコンのタイピングの音が部屋に響く。
「高橋政雄の葬式が終わって、そのあとどうした?」
葬式? あぁ、アイツ死んだのか。「もう終わりだ」とかよく言ってたし、いつ死んでもおかしくなかったもんなぁ。
「親父、死んだんだ」
刑事は怪訝な顔をする。自身のことを、どこか他人事のように話す高橋の口振りに違和感を覚えている様子だ。
「……よかった」
安堵を含んだ一人言に、ますます不審を募らせ、表情を固くする。
「お父さんが死んで嬉しい?」
刑事の言葉に、高橋はまた安堵する。自分と父親の関係はまだ探られていないようだ。
「えぇ、まぁ。……刑事さんみたいな、生まれたときから人生楽な奴には絶対に分からないよ。何をやっても駄目だし。金を稼いでもなくなってるし、隠しておいても場所を言わされるから。殺そうと思ってたぐらいだし」
「殺したのか?」
「……いや、知らない。俺はそういうことはしない」
もういいだろ、早く家に帰りたい。俺はいつまでこうしてなきゃならないんだ?
疚しいことをした記憶はないし、刑事の質問には答えた。一定の間隔を置いて聞こえるパソコンのキーを叩く音に、苛立ちを覚えた。気持ちを落ち着かせるために左手で頬杖をついた体勢のまま、右手を机の上にだし、爪で机を引っ掻く。
「ねぇ」
無意識の貧乏揺すりで小刻みに机が揺れる。
「カツ丼、まだ?」
ひどく空腹だった。




