8 アルゴリズム
「俺、爆弾作りたいんだ」
いきなり呼び出されたと思えばこれだ。油断も隙もない。
「何に使うの?」
興味のあるフリをして聞いてやる。まぁ一応は、授業をサボった甲斐があるというものだ。
「俺の潔癖症を克服してくれた先輩がいて、その人の役に立ちたいんだ」
潔癖症? あぁ、そういえばバカ兄貴、潔癖症だったなぁ。一時期は、ドアノブ用ハンカチとか持ち歩いてて気持ち悪かったし。
「そういえば、エタノール臭くなくなったね」
エタノールだけでない。強いナフタリンの香りもしない。おそらく、その他諸々に使用していた薬品も、今は一切使っていないのだろう。莉沙は田島の言う、先輩の存在を訝しんだ。
「彼女?」
「え……ま、まあ」
目を白黒させる田島に、莉沙は鼻を鳴らした。
「へぇ。で、写真とかないの?」
「え、あぁ。あるけど」
ポケットから折り畳んだそれを差し出す様子に、さすがにずぼらなのではないかと首を傾げる。一体どんな女なんだろう。
「あ、なかなか美人。やるじゃん」
想像していたよりも小綺麗で、さっぱりした印象だ。黒目勝ちな瞳か悲しげだが、背後の桜同様儚さがある。
「たまにおかしなことを言うんだ。『死にたい』とか」
「美人の上にメンヘラか、レベル高いな。おもしろ」
「笑い事じゃないんだけど」
田島は困ったように眉を顰めた。“メンヘラ”の意味を思案しているのか、視線が左右に揺れている。




