3 アナクロニズム
「あり得ない、最悪」
莉沙は空き教室でイライラと歩き回っていた。放課後ということもあり、人の気配がない。机には書きかけのレポート用紙が何枚か乱雑に置かれており、図書室から借りた分厚い本が何冊か積んである。
夏休みの宿題であった呪詛人形を却下され、代わりの課題を出された。仕方なく取り組んでいるが、新学期の忙しい時期に余計な時間を取らされる。
「そこ、使用許可取ってるの?」
突然後ろから声がした。驚いた様子を知られないように、ゆっくりと振り向く。
「……はい」
できるだけ無愛想に返事をする。莉沙に声をかけた人物は背が高く、なんとなく見覚えがあった。
「ふーん、補修?」
そう言いながら近づいてくる。監督生の腕章が見えた。
そういえば寮の先輩にそんな人がいたような気がする。名前は確か、ホフマンさん?
補修なら先生がいるだろうに、と言い返しそうになったが、相手が上級生であることを思い出し、次々浮かぶ罵倒の言葉を呑み込んだ。
「いえ、レポートの再提出を言われて、それで……」
「へぇ、馬鹿なんだ?」
ホフマンは莉沙に近づいて、机上のレポートに目をやる。身も蓋もない言い方に、莉沙は表情に出さずに憤慨した。
なんて失礼なやつだ。私は馬鹿ではない。えんどう豆のメンデル氏も、当時は正当な評価が下されなかったという。私のレポートだってきっと、そのうち評価されるに決まっている。
苛立ちが高まった。ポケットの中の小瓶を握り締めた。