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ちなみにこのとき、カメラマンはいない。
ロケに行ったのが出演者二人だけなのだ。その状況事態、映像をやってる人たちは眉をひそめるだろう。どうせロクな映像が撮れるわけない、と。
映像の出来はともかく、カメラマン無しの撮影は無駄にややこしい。
登場人物が一人のショットではもう一方がカメラマンになれば済むが、二人が映るときはカメラを三脚に固定し、回しっぱなしのカメラの前で芝居をしたりする。いちいち止めるのが面倒なので、何度か繰り返して本番の芝居をし、念のために映像をチェックする。すると、大抵の場合、立ち位置を間違えていて構図がおかしかったり、ひどい場合は顔が画面から切れてたりして撮り直すという、ちょっと人には見せられない、まぬけな撮影風景だ。これは、人気がない樹海が幸いした。
つらいのはロングショットである。三脚を立てて撮影場所を決め、まず相棒のYに立ち位置まで行かせる。そして実際に歩かせて構図を決めたら、録画ボタンを押して自分もそこまで行って、今度は本番として二人で歩く。終わったら一人でカメラまで戻り停止ボタンを押して、録画した映像をチェックする。改善点に気付けばそれを繰り返す。
本番中の部分はともかく、録画ボタンを押してトコトコとカメラから遠ざかっていく自分の姿はひたすら間抜けだ。足場が悪いせいもあって、時折よろめきながら、おっかなびっくり早足に歩く姿は、この後、編集作業ではずいぶん見ることになる。
しかし、何事も学習するものだ。後の撮影では録画ボタンを押してから遠ざかっていくところも、カメラを止めに戻ってくるところも、ひと続きに芝居を続けるようにした。一連の映像を見ると、単に二人でカメラから遠ざかって行ってグルっと旋回し、カメラに近づいてくる、という意味不明の行動だが、編集をして別々のシーンの中で使えば、「後ろ姿」「横切り」「前から」という三つのショットとして無駄なく使うことができる。
もちろん背景が同一だから、編集によっては不自然になる可能性もある。しかし、あの黒澤明も「七人の侍」の中で、男が落馬するショットを追加したくて、別の場面で使っているフィルムを左右反転させてもう一度使っている、というのだから、背景が同じショットが別の場面に出てくるくらい大した問題ではないだろう。
少なくともそういう工夫によって、多少だが撮影時間の短縮に繋がった。