5.突然、再び
ビントリスは僕のすることを大人しく見守りながら、痛さに耐えてくれていた。
我慢強いらしい。でも、尻尾を見ていると痛そうだと分かるので早く終わらせてあげないとな。
「こんな感じかな。膿んでなくてよかった。まだ血はにじんでいるみたいですが、出血は止まっているみたいですね」
「ああ。そこまで深くなかったからな。しかし、手当てするのに慣れてるんだな」
「基礎的なことだけですよ。あ、洋服を脱がせちゃったし何か代わりのものを……」
「別に服なんて着なくても構わないって。お前の服、俺は着られそうにないしな」
言われてみると僕よりもビントリスの方が一回り体格がいい気がする。
となると、僕の服じゃ小さくて着られないかもしれない。
「ですね。すみませんが、毛布をお貸しするのでくるまっていてください」
「そっか。ありがとな。あー……上も脱いじまっても構わないか? それと、俺に敬語なんていらない。俺も使ってないしな」
「そう? じゃあ……うん。そうする」
ビントリスとは初めて会ったというのに、なんだか話しやすいな。
緊張しなくて済むっていうか、親しみを感じる。
ビントリスもパーカーを脱ぎ捨ててから僕をじっくりと眺めて、ニカっと笑う。
「あー……参ったな。俺、お前のことを気に入っちまった。こういうのなんて言うんだ? 一目ぼれ?」
「……え? ええっ! いや、あの、何を急に?」
ビントリスは楽しそうに笑いながら顔をグッと近づけてくる。
蜂蜜色の瞳は俺をじっと捕らえて離さない。
僕もだんだん目が離せなくなってしまう。
「ハハハ! そんな顔しなくても、とって食ったりしねえって。でも、困った顔も可愛いな」
「いや、本当に何を言って……あ、ちょっと!」
ビントリスは僕の眼鏡を勝手に外して、更に身体を屈めて僕の顔を眺め始めた。
僕は目が悪いけど、ここまで近寄られたらさすがに見える。
「ふうん。小さくって可愛い目だな。お人よしだってのに、行動力もある。ふわっふわの髪と可愛い耳か。お、筋肉は……やっぱそこそこついてるよな。でも、ちょうどいい感じだ」
「眼鏡返して? 僕、目が悪いから見えないんだ」
「あー、悪い悪い。お前の顔をじっくり見てみたくってさ。ごめんな」
ビントリスは悪戯っぽく笑ってから、僕に眼鏡をかけてくれた。
全く、図々しい人だ。
「すぐに出て行こうと思ってたけど……少しの間だけでいい。ここにいてもいいか? もう少しだけ、お前を知りたいっていうか。仲良くなりたくなった」
「ビントリスって……思ったことをそのままストレートに言うんだね。でも、不思議だ。僕はもっと警戒すべきなのに、君のことが嫌いじゃないって思ってる」
「じゃあ、俺のことも気に入ってくれたってことか?」
「それとこれとは……別よ。っていうか、今日はなんでこんなにモテ気なんだろう……まさか、一日の間に二回告白されるなんて……」
僕が顔を逸らしながら呟くと、ビントリスはグッと両肩を掴んできた。
そして、僕の額に自分の額をこすりつけてくる。
「何? お前、別のヤツにも言われたのか。もしかして、さっきちらっと言ってたのって……そのことか?」
「ああ、うん。告白されちゃったんだ。僕の……最推しに」
「はあ? 最推しだぁ? なんだ、アイドルか何か?」
「職業はアイドルではないけど、アイドル的人気の人だよ。推しを公言してる人がたくさんいる憧れの人」
僕が笑顔で教えると、ビントリスはあからさまに面白くなさそうな顔をした。
ビントリスは顔によく出るから分かりやすい。
「ソイツはどんなヤツだ?」
「とても爽やかで、気遣いもできて仕事もできる人。で、カッコイイんだ」
「ふうん。アイドル的存在っていうのが分かりやすそうなヤツだ。で、お前はソイツに告白されたのか。もう返事しちまったのか?」
ビントリスはからかう雰囲気ではなく、僕に真面目に詰め寄ってきた。
僕はなんて答えようかと思ったけど、嘘をつきたくないなと思ったので正直に話すことにした。




