1.希少種獣人区画警察署の広報課
今日も受付では退屈な時間との戦いだ。
この仕事も立派な仕事だとは理解しているけど、この希少種獣人区画には滅多に新しい獣人は訪れないからだ。
僕はコビトカバ獣人のトッカーブ。僕の勤め先は希少種獣人区画警察署の広報課。
一応僕も希少種だけど、灰のもさっとした髪にちょんとした耳があるくらいで獣人としては別にカッコよくもない。
のんびりとひなたぼっこをするのが好きだし、できればせかせかと動きたくないと常に思っている。
小さめの目は視力が悪いのでいつもまあるい黒縁の眼鏡をかけているんだけど、この眼鏡がずり落ちてきちゃうんだよな。
広報課はこの区画の人々の安全を守るために子どもたちの前で希少種獣人区画の説明をしたり、人々の安全を守る保安活動も担当している課だ。
そして、我が警察署には希少種獣人区画のアイドル的存在がいる。
そこに貼ってあるポスターの中心で、爽やかな笑みを浮かべている獣人だ。
「お、人気者のオカフュさんだ。いつ見ても爽やかだよな」
「そうだね。僕もそう思うよ」
同僚のジャイアントパンダ獣人のトパントが言うように、オカフュさんの周りはいつも輝いて見えた。
彼はオカピ獣人で、流れるような焦げ茶のショートにピンとした栗色の耳が良く似合う。
スラっとした体形の持ち主で、お尻で揺れる尻尾の先まで美しい毛並みも見る者を惹きつける。
澄んだ黒の瞳で見つめられると、獣人たちはみんな耳を震わせながら彼を見つめていた。
「いいよなぁ。絵になるヤツは」
「トパントだって、ふくよかで愛らしい見た目じゃないか。可愛いって言われていつもなでなでされてるくせに」
「それは、触り心地がいいって言うだけだろう? オレはカッコイイって言われたかったよ」
二人で笑いあっていると、オカフュさんが笑顔のままこちらへ近づいてきた。
受付の僕たちに何か用事があるのかな?
「お疲れ様です。今日の撮影も終わったので報告を。ネームゾウ署長はいらっしゃいますか?」
「オカフュさん、お疲れ様です。署長ですか? 少々お待ちください。内線繋ぎます」
トパントは慌てて内線を署長室へと繋ぐ。ネームゾウ署長はマウンテンゴリラ獣人で体格もしっかりとした豪快な性格の署長だ。
見た目はほぼ黒いので、一度見たら忘れられない見た目かもしれない。
「……はい、分かりました。お待たせしました。署長がお話すると言っております。トッカーブ、ご案内を」
急に話を振られて驚いていると、トパントが悪戯っぽくウィンクしてくる。
僕がオカフュさんのファンだと知っていて役目を譲ってくれたのかな?
こういう気遣いをしてくれるところもトパントの人気なんだけど……本人はやたらとカッコイイことにこだわるんだよなぁ。
「仕事中にごめんね。お願いできる?」
「はい。もちろんです。活動とお仕事の両立でお忙しいのに、いつも来ていただいてすみません」
「そんなことないよ。市民を守るのが警察官の務め。でしょう?」
どんなに疲れていたとしても、オカフュさんはいつも笑顔を絶やさない。
オカフュさんは刑事課だから、事件があれば現場へ急行しなければならない。
だけど、見た目の良さでどの部署からもオファーが来る。
そのため、事件がなくてもオカフュさんは大忙しだ。
この希少種獣人区画は、その名の通り希少種の獣人のみが暮らしている区画だ。
希少種たちは基本的に絶対安全を保障されたこの区画で一生を終えると決められていた。
それが種を守ることにも繋がるので、皆納得して住み続けている。
僕も一応その一人って訳だ。
「トッカーブ君もずっと受付にいるじゃないか。受付は警察署の顔だし、大変だろう?」
「いえ、僕は広報課ですし。確かに受付業務も担当していますが、市民の安全を守るために刑事課の皆さんは日々活動されていますからもっと大変だと思います」
僕は苦笑したが、オカフュさんに名前を呼んでもらえることが嬉しかった。
確かに自己紹介はしたけれど、覚えてもらえるとは思っていなかったからだ。




