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仮面のない空へ:常闇編  作者: R


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第1話

【黒い空】


空は、黒かった。


雲ではない。

夜でもない。


昼も、夜も、この世界には存在しない。


ただ――黒い空。


太陽はどこかにあるはずなのに、

その光は一度も地上に届かない。


街は沈黙していた。


瓦礫の隙間を風が吹き抜ける。

崩れた建物。

割れた窓。

人の気配はあるのに、活気はない。


すべてが、どこか“終わっている”。


その街を、ひとりの少年が走っていた。


「……くそっ!」


息を切らしながら振り返る。


追ってくる。


黒い影が。


十人。

いや、二十人はいる。


全員が同じ仮面をつけていた。


黒い仮面。


口元には静かな笑みのような曲線。

目の部分は深い闇。


常闇兵。


この世界を支配する存在、

常闇の仮面に仕える兵士たちだ。


だが彼らは、操られているわけではない。


むしろその逆。


仮面の向こうから聞こえる声は、

どこか恍惚としていた。


「逃げるな」


「常闇は救いだ」


「恐れる必要はない」


「お前も、仮面を受け入れればいい」


少年は歯を食いしばる。


「ふざけんな……!」


瓦礫を飛び越え、細い路地へと滑り込む。


だが追跡は止まらない。


足音が近づく。


黒い影が壁に映る。


この世界では――逃げ場などない。


少年の名は、カナタ。


この常闇の世界で生き残る、数少ない自由な人間の一人だった。


「……まだ捕まるわけにはいかない」


胸元に手を当てる。


服の下に、硬い感触があった。


仮面。


だが、常闇兵のものとは違う。


古びた仮面だった。


石のような質感。

中心には奇妙な紋章が刻まれている。


円が重なり、歪み、絡み合う。


まるで壊れた時計のような模様。


カナタはそれを強く握った。


「まだ……使うわけにはいかない」


祖父の言葉が頭をよぎる。


――この仮面はな


――世界が完全に終わった時だけ使え


意味は、ずっとわからなかった。


だが今ならわかる。


この世界は、すでに終わりかけている。


後ろから声が響く。


「止まれ」


「逃げる必要はない」


「常闇に従えばいい」


カナタは振り返る。


路地の入り口を、常闇兵たちが塞いでいた。


逃げ道はない。


前にも、後ろにも。


数十の黒い仮面が並んでいる。


その中心の男がゆっくり言った。


「なぜ抗う」


「アルカディア様は世界を救った」


「争いは消えた」


「苦しみも消えた」


「それなのに――」


男は首を傾げる。


「なぜお前たちは拒む」


カナタの拳が震える。


「……それが救い?」


黒い空を見上げる。


光のない世界。


笑わない人々。


仮面に支配された街。


「これが?」


男は静かに答えた。


「そうだ」


「自由は人を争わせる」


「だが常闇は違う」


「すべてがひとつになる」


「それが救いだ」


カナタは笑った。


小さく。


だが確かに。


「……じゃあ」


ゆっくり言う。


「俺はその救い、いらない」


その瞬間。


常闇兵たちが一斉に動いた。


「捕えろ」


「仮面を与えろ」


カナタは後ろへ跳ぶ。


崩れた壁を蹴り、屋根へ飛び乗る。


だがすぐに別の兵が立ちはだかった。


逃げ場はない。


囲まれた。


カナタは息を吐く。


そしてもう一度、胸元の仮面を握った。


時空の仮面。


一族に伝わる仮面。


だが今はまだ使えない。


まだ――。


「カナタ!!」


遠くから声が聞こえた。


振り向く。


瓦礫の向こうから、三人の影が走ってくる。


レナ。


ガルム。


そして――シオン。


カナタは小さく息を吐いた。


「……遅い」


レナが双剣を抜く。


「助けに来たんだから感謝して」


ガルムが大剣を担ぐ。


「さぁて、暴れるか」


シオンは静かに仮面を手に取った。


「囲まれてるけどね」


常闇兵たちがざわめく。


「抵抗するのか」


「無意味だ」


「常闇に逆らう者に未来はない」


レナが一歩前に出る。


「未来?」


剣を構える。


「そんなの――」


カナタをちらりと見る。


そして言った。


「自分で作るものよ」


次の瞬間。


戦いが始まった。


黒い空の下で。


希望のない世界で。


それでも――


まだ終わっていない戦いが。


始まった。

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