赤くなる
いつものように上司と部下と事務の女の子と入口に住み着いてる酔っ払いとドッペルゲンガーとイヌとネコとカタツムリとガンダムにしこたま叱られ、帰路に就く。
はぁ⋯⋯毎日毎日、なにやってんだろな。
駅に着くと、ホームが真っ暗だった。そして、誰もいない。休みか? でも発車案内の電光掲示板はちゃんとついてるな。じゃあなんだ? 俺が臭いから誰もいないのか? ムカつくな。クソが。
『間もなく1番線に電車が到着します』
お、きたきた。
〈プシー〉
ドアが開いたので入ろうとすると、車内に異様な光景が広がっていた。乗客が全員、満面の笑みでスマホを見ているのだ。
「何だこの駅...気持ちわりぃ...」
思わずそう漏らすと、車掌がマイクを持って俺のほうを向いた。
『早くお乗りください』
冷たい声が足を動かす。
〈プシー⋯⋯〉
怒られてつい乗ってしまったが、周りのヤツらが気味悪すぎる。なんで笑ってんだ。そのスマホに何が映ってるんだ。
こっそり隣に立っている女の画面を覗いてみると、そこにはその女自身の顔が映っていた。インカメラか?
他のヤツらを見てみても、同じことをしているようだった。あと13分こんな状態でいなきゃならんのか。なんだか気まずいし、気が狂いそうだ。
そうだ、コイツらと同じことをしよう。そうすれば誰にも気を遣わなくて済む。
俺はスマホを取り出し、カメラアプリを起動した。
ニィー。
歯と歯の間の根元のところが黒い。そして全体的に黄色い。ヤニのせいか。
それにしてもなんだよ、この皺。笑うとこんなにシワシワになるのかよ、俺。歳とったなぁ⋯⋯
最寄りの駅に着くと、俺に続いて数人降りてきた。皆スマホを仕舞い、普通に戻って歩いていった。
それからは特に何もなく、家に着いた。なんだったんだ、あの電車は。
翌朝、SNSでとある動画が話題になっていた。それはまさに昨夜のあの車両の様子で、俺の笑顔までばっちり映り込んでいた。これじゃあまるで、アイツらの仲間じゃないか。




