表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コウジン×クライシス  作者: フジオリ カズ
カミカクシ編
5/6

カミカクシ 伍

 小刀の柄を強く握る。


 彼女が僕を想って世界を壊すのならその前に僕は自ら自分の命を断たなければならない。


 天国や地獄とかの死後の世界があることは知っている。


 だけど僕はハクの御神体になった時点で死後の安寧は訪れない。


「賭けをしよう」


 この世界に来る前の約束を思い出す。


「きみが私の世界を壊さずにいられるかどうか賭けをしよう」


 その人は真剣な面持ちで提案した。


「この世界には私の大切なものがいっぱいあるんだ


 だからきみが人の範囲内でいてくれるのならきみの望みを叶え続けよう」


「きみがなんらかの手段を用いてこの世界を壊してしまうのなら主神としてきみをこの世界から追い出さなければいけない」


「でもきみは人間だ。


 人間は変化し続けるものだと僕は思っているし、僕も元々は人間だったから間違いもするし失敗も犯す」


 一人称が変わっている。


 この人は自分の立場的な考えを示す時は私、個人的な見解を示す時は僕と一人称を使い分ける癖がある。


 自覚があるかどうかは知らない。


 ただ、そういう抜けてるところに安心感を覚えていた。


「僕はきみに期待しているんだ


 この緩やかに終わりに向かう世界を救えるんじゃないかってね」


「貴女はできなかったの?」


 主神であるこの人のほうがよりよく世界を救えるだろうに。


 その人は寂しそうに笑ってこう答える。


「できなかったから、ここにいる」


 世界の外殻であるここを養父は神域と呼んでいた。


 プラネタリウムのように星が多く瞬くが空虚なその空間にずっと一人でいなければならないという。


 それが僕はどうしようもなく──









「あ、起きた」


 見慣れた天井に意識を失う前に見た顔。


「……あの後どうなったの?」


 聞きたいことはいろいろあるが、目が覚めても実稜がここにいるのなら僕の予想通りにコトが運んだんだろう。


 実稜は僕が気絶した後のことを話し出した。


 気絶してすぐ滝が部屋に入ってきたらしい。


 そして僕が言った通り実稜はここで暮らすことになったと


「起きたら部屋に来いってえーと、タキさん?が言ってたよ」


「……行きたくないなぁ」


 絶対怒られる。


 気を緩めるな奴らにつけ入る隙をつくるなと言いつけてきた人だ。


 油断して意識だけとは言え別の空間に連れて行かれたことを知れば怒るだろう。


 おでこに貼られてた冷えピタを剥がしながら嘆息する。


 これから起きることを想像すると肩が重くなる。


「処す?」


 何やら物騒な言葉を聞いた気がしたが気のせいだ。


 こんなことで人一人消えてたまるものか!


 すっかり暗くなった外を眺めながら廊下をわたり滝の部屋に向かう。


 襖に手をかけ、開ける前に呼吸を整える。


 大丈夫だ、流石に寝起きに投げ飛ばされたりとか痛いことはされない。


 覚悟を決める。


「失礼します」

「……起きたのか」


 部屋に入ってすぐ視界に飛び込んできたのは蝋燭の灯り。


 声のする方に視線を動かすと浴衣を着た滝がすこし驚いたようにこちらをみた。


「起きたのならいい

 今日は苦労をかけたな、部屋に戻れ」


「……え!?」


 予想外の反応に思わず狼狽える。


「お、怒らないの?」


「今回のは予測範囲内だ、なんの問題もない」


「だ、だっていつもは怒るじゃん」


「今までのお前だったら体調を崩すからな」


「じゃ、なんで今日は怒らないの?」


「お前が気を失ったのは4時、今は10時だ」


「えっ三日たってるとかじゃないの!?」


 進歩だ。


 今までだったらハクと言葉を交わしただけでも一週間は寝込んだりしてたというのにその日の当日に目覚めるとは。


「体が順応してしまったんだろう

 お前たちの場合、御神体が生物なせいで神として顕現する時、脳に負荷をかけられるから昏倒する」


「だからハクは普段意識を沈めて僕に負担をかけないようにしている」


「…… そいつがどう言っているかは俺は知らんし興味もない

 が、お前たちはこの世界にとって異物同士だ

 どうなるかはわからん」


 その先は未知だ。


 言外にそう言われている気がする。


「さて答えたぞ、さっさと飯を食って寝ろ」


「うぅ、はい…」


 ノロノロと部屋から出ていく洸を見送って滝と呼ばれている男は深く息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ