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コウジン×クライシス  作者: フジオリ カズ
カミカクシ編
1/6

カミカクシ 壱

 この世界にはさまざまな生き物が存在している。


 それは神であったり僕を含めた人間だったり、そうでないものだったり


 それが僕はどうしようもなく──




「洸」


 名前を呼ばれ振り返る。


 男はいつものことながら仮面のように整った顔でこちらを見ており、その表情からいつも暮らしているというのに何を考えているのかわからない。


「はいはい、滝さんどうかしましたか?」


「仕事だ、今回はお前がやれ」


「ちょっ…!」


 ぶっきらぼうにそれだけ言って屋内に入っていく滝。


 その背中を手に持っていた園芸道具を置いて追いかける。


 長い廊下を滑るようにしてついて行くと、この道順は客間に向かっていると気づく。


 そういえばさっき二人

 女性と子供を客間に案内した。


 ザァ…と血の気が引きせめて顔についた土は落とそうと方向転換をしようとしたその時だ。


 一瞬の浮遊感から視界に天井が写り気づいた。


 部屋に投げ込まれた。


 畳に打ち付けながら転がる。


 ようやく止まった時には「詳しい話はそいつに聞け」と言葉を吐き障子を閉めた。


「あんの朴念仁…!」


 悪態を吐き、この痛みを与えてきた義父に恨みを募らせる。


「そいつに聞けって…」


 薄暗い部屋を見渡す。


 視線があった。


 視線があったそれはびくりと大きく体をゆらしフードを深く被った。


 ……また厄介な依頼を受けたのか。


「(そもそもうちに依頼する時点でまともではないか)」


 ここは普通の人たちが対処できないとたらい回しにされた人がたどり着く場所だ。


 だからこのフードをかぶっている子供は対処できないと判断されたトラブルを抱えている。


「僕は宵海 洸、中学二年生」


 相手を知るにはまずは自分のことを知らさなければならない。


 何も知らない相手よりなにか知っている方が自分のことを話し出しやすい。


 相手にとって身近で比較的反応がわかりやすい情報


 そう考えた時、一番最初に思いついたのは学年だ。


「……中二?」


 目論見は成功しその子供は学年という情報に食いついた。


「おれたちの一つ下か」


 ……ん?


 “たち”という複数人系なのが、気になるがそのあとに続いた言葉に意識を持っていかれる。


「中三ですか?」


「……休学してるけど」


 中三


 しかし褒め言葉や幼さの系統として言うわけわけではないが小学生のように見える。


 それも小学校3年生あたりの。


「おれは、鬨語中学の三年」


「鬨語中学…!」


 この地域で一番有名な男子校だ。

 進学校でもあるそこは進級するのだけでも苦労すると聞く。


「よかったら何に困っているのか教えてください」


「……さっきの男の人にも言うの?」


「ケースバイケースですが、僕一人でなんとかできそうなら僕だけで」


「年下にどうにかできるものとは思わないけど


 でもまあ、お前の方がさっきの人よりは話しやすそうだからいっか」


 そう言って深く被っていたフードを取る。


「おれは神光 実稜

 元モデルで見た目はこの通り、小学生で止まってる」


 自然なアッシュブロンドにオッドアイ。

 モデルと言われても確かにと頷ける容姿だ。


「双子の兄と離されてから容姿が変わってないことに気づいた」


 実稜は語り出した。


 実稜の家は四人家族だったらしい。


 モデルの父とカメラマンの母。

 そして実稜とその双子の兄の二人兄弟。


 家族仲はそれほどよくなかった。


 相手に嫌われたくなくて不満が言えるような関係でもなく家族という役を演じているような家庭だった。


 でもそれでよかった。


 おれには双子の兄がいる。

 兄さんさえいればおれは完璧だった。


「完璧?」


「だってそうだろう?母さんの中から一緒だったんだから二人でやっと一人の人間でしょ」


 さも当たり前だと言わんばかりの顔で疑問に答える実稜はなんの疑念も抱いていないようだ。


「……続けて」


 続きをせっつく。


 なぜこうなってしまったのかおおよその予測はついたが、予測は予測だ。確定ではない。


「兄さんに自意識っていうのかな、そういうのが芽生えたのかおれと同じ格好をするのを嫌がった。


 でも母さんは兄さんが変わるのを許さなかった


 それからちょっとトラブルが起きちゃって、父は母と離婚して兄さんを連れて出て行った」


 なるほど、だからそうなのか。


「それから、一年ぐらいたって成長しないことに気づいてそれから五年ぐらい母さんが手を尽くしてたんだけどどうしようもなくて、父に知り合いの科学者を紹介してもらったんだ」


父の知り合いという医者のもとに来てしばらくして、この症状に打つ手がないと気づくのにそう時間はかからなかった。


「お子さんに起きている症状は現在、我々には対処する術がありません」


 診断を下した医者が言うには遺伝子の病気で似た症状が出る人も少ないがいるらしい。


 だからさまざまな検査をしたが異常は見当たらずむしろ健康な状態だと言う。


「体力に変化はないし、記憶の欠落も起きていない


 なのに成長はしない、ただ……」


 そういうと医者で科学者である男は一枚の紙を差し出した。


「これは個人的に取ったデータなんですが


 人間対象に検査しても出ないはずの数値が出ている」


「それがうちの実稜となんの関係が…?」


「通常この数値が動くのは半人だけなんです


 実稜くんはミックス、血が薄れると計測機に乗るような数値は出ないんです」


 曰く原因不明の異常が増えたと。


「ここでは半人についてはどうすることもできませんが、知り合いにこういう異常に対処できる人がいるのでその人を頼ってみてください」


 ── そうして勧められたのが、ここだった。


 紹介者がだれかわかったところで頭を抱える。


 オカルト系の知り合いからの紹介だと思ったら科学者からの紹介だったのか。


 思い当たる人物が二人いるが、話を聞く限り対応的に良識のある人の方だろう。


 「気が向いたら検査させてね」と注射器をチラつかせ不気味な笑みを浮かべる方だったらついてきていただろうし。


 そう考えたらどうなっていたのか。身震いする。


 しかし半人なら出る数値が律人である実稜に出たというのは予想を補強する話だった。


 魅入られた理由もきっとその見た目のせいだろう。


「実稜さんはどうしたい?」


 意思確認は大事だ。


 どの意識レベルでこの症状を治したいのかがわかればあとは早い。


「兄さんと一緒に、ちゃんとした人になりたい」


 歪んでいる。


 でも産まれてからそういう考えが当たり前だったらこうなるものかと共感ができないが理解はする。


 だとしたら、これからすることはこの部屋でやるには厳しい。


「悪いけど付いてきてほしい、です」


 襖を開けて誘導すると素直についてきた。


 ……ついてこなかったら引きずって行くしかなかったからたすかった。


「今日はお母さんと一緒に来たんですか?」


「敬語はなくていい、そうだよ」


 きっと滝さんの方は室内でも大丈夫だ。


 大きな問題を抱えている方をこっちに投げてきたのは先に母親の方をなんとかしにかかったのだろう。


「実稜さんは」


「実稜でいい、長いこと休学してるからお前と同じ学年になる」


「じゃ実稜、家族は好き?」


「好きかどうかか…」


 実稜は考え出した。


 家族仲はそれほど良くはなかったと言っていたから、好きかどうかで考えたことがなかったのかもしれない。


 人様のことをどうこう言うわけではないが、やはり何かが決定的に歪んでいる。


 それこそ何かが隠されているように。


「なら母親と離れて暮らすことになるとしたらどうする?」


 質問の種類を変える。


 すると意外にも返答は早かった。


「これが治るのなら構わない」


「……そっか」


先行してクロスフォリオにも上げている物語です。


彼らの物語をどうぞ

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