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7 大聖女は死神皇帝の前で躓きます 下

 セレスから投げ掛けられた質問に対する答えを、フレドは真剣に考えた。ここでおかしな回答をして彼女に疑われてしまったら、わざわざ変装までして身分を隠している意味が無くなってしまう。


 それにしても、農場で雇われている男の給金とは、一体どのくらいなのだろうか?フレドは皇宮で働いている者を思い浮かべる。側近ミュゼの月給は金貨百枚。これは全く参考にならない。理由は簡単で、彼の月給が皇宮で一番高いからだ。


 続いて、侍女長は金貨五十枚。皇宮の総料理長が金貨六十枚。皇宮庭園管理長が金貨二十枚。厩舎管理人が金貨十五枚。皇宮図書館の館長が金貨五十枚。皇宮医務官主席が金貨八十枚。――――残念ながら、フレドが決済のサインをするのは責任者クラスばかりで、その下で働いている者の給金までは把握してなかった。


「あああ、盲点だな・・・」


 フレドはボソッと呟く。


「ん?何か言った?――――ええっと、ごめんね。突然、変な質問をしてしまって・・・。言いたくなかったら無理に言わなくても大丈夫よ」


(唐突な質問で、フレドを混乱させてしまったわ・・・)


「――――いや、別に言いたくないとかではなくて・・・。俺の月給は金貨三枚だ」


「はっ!?ええーっ??金貨三枚!?そんなに!?」


(えーっ、農園の手伝いって、そんなにお給料が良いの!?想像していたよりも、かなり多いわ!!)


 セレスの反応を見て、フレドは失敗した!と思った。ところが、話は違う方向へ流れていく。


「あのね、聞いてくれる?私の月給は銀貨一枚なの。もしかして、私の雇い主の方が、おかし・・・」


「はぁ!?銀貨一枚??金貨じゃないのか?」


 フレドが大声で割り込む。


(この反応、ロドニー翁と全く同じじゃない・・・。やっぱり、ベリル教団がおかしいということよね?)


「――――俺よりも、セレスの雇い主の方が問題なのでは?」


「そうね。先日、知り合いの好々爺にも似たようなことを言われたわ。どうしたらいいと思う?仕事を変えた方がいいかしら・・・」


「ああ、早めに転職することをお勧めする」


 キッパリ言い放つフレドの言葉を聞いて、セレスは決断する。やはり教団からは何としてでも逃げようと。


「セレス、月に銀貨一枚で、どうやって生活しているんだ。食事は?」


 膝の上の彼女はとても軽かった。食事もロクに与えられてないのではないかと、心配になる。


「ええっと、食事のことなら大丈夫よ。賄いがあるの。毎月、手元に届くのは銀貨一枚だけど、支給されている額自体は銀貨三枚で、そこから銀貨二枚が食費と寮費で差し引かれているのよ」


「――――雇い主に搾取されている可能性が高そうだな」


「搾取・・・」


 セレスは凹んだ。


(フレドがハッキリと口にしたということは、確実に搾取されているって考えた方が良さそうね。はぁ、教団の指示通り、毎年多額の寄付を集めたというのに!あのお金は何に使われたのかしら。きちんと苦しんでいる人や困っている人に使ってくれたのかしら・・・)


 元気が無くなったセレスの頭を、フレドは優しく撫でる。


(まさか、多くの方々から集めたお金を悪いことに使っていたり何てことは・・・、流石に無いわよね。だけど、もしそうだったとしたら?私、悪い奴ら片棒を担いだということになるのでは??待って、待って、まだ、そこまで決めつけるのは早いわ。でも、悪い事ばかりが思い浮かんで・・・)


 セレスは今、自分の置かれている場所に対する疑問が次々と湧き上がって来る、これからのことを考えると不安で堪らない。感情が高ぶって目頭が熱くなり、涙が溢れだす。


 ボトボトと大粒の涙を落とし出したセレスを、フレドは再び抱き寄せた。心の中で彼女が置かれている状況をもっと聞き出した方がいいのだろうかと悩む。皇帝という身分を隠している以上、表立って彼女を救うことは出来ない。だが、裏からなら手を伸ばすことが出来るかも知れないと覚悟を決めた。


「セレス、君の雇い主について聞いても?」


 フレドは彼女へ問う。しかし、直ぐに彼女は首を左右に振った。


「――――大丈夫。自分で何とかしてみるわ。変な話をして、ごめんね」


「いや、いつでも話してくれ。何でも聞くから」


「うん。ありがとう」


 セレスはポケットからハンカチを出して涙を拭う。フレドはその様子を黙って見守った。何も手伝うことが出来ないことを、悔しいと感じながら・・・。


――――セレスは落ち着きを取り戻すと、手作りのプリンをバスケットから取り出して、フレドに渡した。

 

「さっきも言ったけど、このプリンはお砂糖の代わりに蜂蜜を使っているの。自信作だから、食べてみて!」


 セレスに勧められ、フレドはプリンを一さじ掬って、口へ運んだ。


「美味しい・・・」


 口に含むと優しい甘みと玉子のコクを感じた。とても滑らかな食感。そして、上に掛けられている蜂蜜はフレドの記憶にある味で・・・。


「――――ローランド地方のアカシア蜂蜜」


 フレドは油断して、つい口に出してしまう。


「凄い!!当たりよ!!これはビーリング商会から頂いたものなの」


 ビーリング商会と言えば、ベリル教団の不正調査リストに載っていたなとフレドは思い出した。だが、ここで話すべき内容ではないので、口には出さない。


「フレドは何でも美味しく食べる人だと思っていたのだけど・・・。本当にグルメだったのね!!ごめんなさい」


「その、ごめんなさいはどういう意味?」


「――――えーっと、味にはこだわりが無くて、大食いなだけだと思っていたの、ウフフフ」


 セレスはバツが悪そうに笑っている。フレドはそれも間違いではないと思った。だから、遠慮せずプリンを口へと運んだ。



―――――おやつを食べた後、ふたりは次に会う日を約束して解散した。


――――――


 執務室で書類を手に取っても、先ほどのことが頭を過ぎる。


 フレドリックはセレスがあんなに泣くとは思わなかった。彼女から詳しいことは聞き出せなかったが、かなり辛い職場なのかも知れない。何か力になりたいと思っても、この身分が足枷となってしまう。


「はあ・・・」


「陛下、先ほどからどうしたのですか?ため息ばかり吐いて」


 ミュゼが呆れた声で指摘して来る。


「それとあの者たちは何処で拾ってきたのですか?」


 ミュゼが指摘しているのは長老ウサギのモリ―が捕らえた五人組のことである。いまのところ、フレドリックは彼に詳細を話すつもりは無い。ノキニアの森に行っていることを秘密にしておきたいからだ。


「とある場所だ。入ってはいけないところへ入ったから罰を与える。ただ、それだけだ。取り調べは俺がするから気にしなくていい」


「もう!!また一人で背負うつもりですか?いい加減、部下を頼って下さい。良いですか?側近も育てないと育たないのですよ!!」


「ああ、もう、ロドニー爺さんのようなことを・・・」


 フレドリックはぶっきらぼうに言い捨てた。


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