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言葉のプロと絵のプロ

作者: あおい

「水瀬さんまた告白されたみたいだよ」

「水瀬さんってあの?」

「そう、デザイン学科で美人の」

「また?今月に入って何人目よ」

誰かの噂話が聞こえる。彼女の話題はよく聞く。学科が違う俺でも知っているくらいだ。

「深美は水瀬さん好きにならないよね?」

同じ学科の女子がよく聞いてくる。

「好きになる以前に話したこともないからね」

そう言うと女子たちはホッとした顔をする。

「あの子性格最悪みたいだから、深美とは合わないよ」



そんな話をしてから数ヶ月。僕は彼女に告白をした。



そして現在。

放課後は学校から離れた小さなカフェで毎日会っている。


初めて彼女に会ったのは授業をサボったあの日。水瀬はベンチに座って熱心に何かを書いていた。時々視線を上げては鉛筆を走らせる。授業真っ只中のその時間は彼女と俺以外に誰もいなかった。

そういえばデザインを勉強しているんだっけ。俺はデザイン学科のことは何も知らない。芸術や美術と似たようなものだろうか。

声をかけるような仲でもないし、集中しているところを邪魔したら悪い。そっと退散しよう。

強い風が吹き、ベンチに置いてあった紙がひらりと舞い上がった。

彼女は気がついていない。俺はその一枚の紙を拾った。


白と黒で構成された世界はまるで本物のようだった。俺が今見ている世界と何も変わらない。まるで色がついているかのようだった。


「これ落ちてたよ」

そう言って声をかけるが彼女からの返答はない。こっちを見もしない。

無視か……。ベンチに置いて立ち去ろうかと思っていたら彼女が鉛筆を止めた。そしてゆっくりとこっちを見る。

「ああ、ありがと」

大きな目を薄くして優しく笑った。まつ毛が影を落とす綺麗な瞳と薄い唇が印象的だった。

彼女はすぐにまた鉛筆を走らせる。

優しい風が彼女の綺麗な黒髪を揺らす。

俺が話しかける余地はなかった。


それからしばらく、彼女と会うことはなかったが、あの絵はずっと頭から離れなかった。


彼女のことを悪く言う人は多いが、俺はそんな印象を受けなかった。だからきっと嫉妬や振られた奴が腹いせにそんな噂を広めているだけだと思っていた。


ただ、そんな噂に関係なく、彼女の絵は魅力的だった。俺はどうしても彼女がいいと思った。

だから、今まで誰にも言っていなかった秘密を明かした。


「水瀬さん、俺の創った物語の絵を書いてくれないかな」




「だーかーらー、こんな表現じゃわからないって。設定資料も雑。もっと細部までこだわってよ」

「誰がちょっと出てくるだけの木の葉の数なんて考えるんだよ。神様だってこの世の葉の枚数なんて知らないだろ」

「あやふやだと世界がぼやけるの、あんたが頼んだんでしょ」

「デザイン勉強するならそこは想像力でなんとかしろよ」

「私は見たものしか書けないの。私に想像させられないあんたの文章力を恨むことね」

あれから毎回同じような言い争いをしている。

「初めて会った時はもっと愛想よかっただろ」

「あんただって、学校では猫かぶってるらしいじゃん」

「別にかぶってないよ。こんなに細かいとこ毎回言われたら文句の一つや二つ言いたくなるでしょ」

「今日も元気ねー。どう、進んでる? ジュースあるから休憩しない?」

いつも場所を提供してくれているカフェのお姉さんがニコニコしながら言った。

「いつもうるさくしてしまってすみません」

「出たよ猫被り」

「うるさい」

こんな俺たちの会話を楽しそうに聞いている。

「できたら私にも見せてほしいなぁ」

「「もちろんです」」

二人の声が重なる。

まだまだ完成までは遠いが今でも彼女の描いている絵を見るとドキドキが止まらない。

自分の考えた物語が色づいていく。

ぼやけていた世界の輪郭が彼女の手によって鮮明になってゆく。

完成が待ち遠しい。

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