表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編練習  作者: 太川るい
7/26

九重

「まさか、とお思いになるでしょう」


 目の前にいる男の人は、両手を組みながら笑っている。


「ところが物語ではないのです。これは一から十まで、本当にあった話です」


 そう言ってから言葉を止め、男の人は傍に置いていたグラスを取って、喉を潤した。


「あなたはなかなか信じる気にはなれないでしょうな」


 彼がグラスを置いた。グラスの中の液体は、光を受けて琥珀色に揺れている。


「いまはまだ分からなくてもいい。しかしきっといつか、お分かりになる時がきます……」




 しばらくしたのち、私はその建物を出た。そのまま歩きながら、私はいま過ごした時間の余韻に浸っていた。


 どうにも不思議な話だった。あの人が話してくれた内容は、聞くぶんには面白かったが、現実にあった話だとは、私には到底信じることが出来なかった。


 私は後ろを振り返る。もといた建物は、他の建物に隠れてもうここから見ることはできない。そのことが、つい先ほどまで自分があそこにいたのだということさえも、なんだか夢のようにおぼろげな出来事にさせていた。




 「私にもいつか、分かる時が来るのだろうか」


 私は自分自身に問いかけてみたが、その答えは、どうにも出そうにはなかった。


 とはいえ歩みを止めるわけにはいかない。私は進んでいかなくてはならない。


 そのうち、広い通りに出てきて、私は交差点ににさしかかった。

 

 雑踏が私を飲み込む。うねる人並みは巨大な意思のように、私をどこかへと運び去っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ