落日
向こうで日が沈んでいく。私はそれを目を細めながら見ている。
夕暮れの太陽はいくらかその輝きを失っているとはいえ、やはりまぶしいことにはまぶしい。私はこのあと少し、自分の眼に太陽を見つめたことによる白い影のようなものが焼き付くことを承知の上で、この落日を見ていた。
「旦那様」
うしろから、私を呼ぶ声がする。
「こんなところにいてはお体に障ります。もうお戻りになられてはいかがですか」
私は聞いていることを示すために軽くうなずいた。しかし、瞳は依然として太陽を見ていた。
「徳永よ」
は、とうしろの彼はかしこまる。それは長年の主従の関係の中では、ごく自然なことだった。
「あの太陽は、なんと美しいことだろうな」
徳永と呼ばれた男は、その言葉に聞き入りながらも、安易な返答をはさまなかった。それをするべき時とそうでない時を、彼は心得ていた。
私はなおも太陽を見ていた。やがて太陽は沈み切り、あたりはその明るさの余韻を残しながらも徐々に暗さを増していった。
暗くなっても、私たちはそこにいた。
ふいに、
「さあ、待たせて悪かった。そろそろ戻ろうか」
と私が声をかけると、徳永の顔は安心したのか、やわらいだように感じた。もっとも、もう暗いことではあったので、その表情ははっきりとしなかったが。
「お嬢様もお待ちになっている頃です」
「なんと。それは怒られてしまうな」
朗らかな笑いをたてながら杖をつく私を、徳永は支えていった。




