象
象の胃袋に入り込んで、もうずいぶんとたつ。
最初は足場を作るのに必死だった。でないと溶けてしまう。
次々と溶ける食べ物からの引っ越しが終わりを告げたのは、象がプラスチックの箱を飲み込んだ時だった。
プラスチックは溶けない。象の胃酸でもそれは平気だった。私は初めて安心して眠ることが出来た。大きく、平べったいその箱は、その後も私の拠点となった。
足場が安定してくると、次に考えるのは脱出のことだった。幸いこの象は何でも食べる。噛まずに飲み込むものだから、食料はどうにでもなった。
「さて」
ゆらゆらと揺れる箱の上で私は考えた。
「どうしたものだろうか」
目の前では丸呑みされた鳥が息を吹き返して、胃の上空を羽ばたいている。
あるいはあの鳥のように、空を飛ぶことが出来るのならば、いくらか脱出の見込みはあるのかもしれなかった。
私は小さい頃に読んだ、おとぎ話の中身を思い出していた。
ちょうど主人公は、今の私と同じように、何かの動物の胃袋に入っていた。あの男の子は、どうやってそこから出たんだろうか。
バシャリ、と音がした。
音がした方を見ると、丸太のような錦鯉が、身をよじらせながら向こうで泳いでいた。