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短編練習  作者: 太川るい
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 水が怖い。


 これは昔からの自分の習性であった。水が怖い。何も今に始まったことではない。


 ことの起こりは小2の夏休みだった。暑さにうんざりしていた私は、近所のプールに行くという計画を立て、そのための入館料も親から調達し終えたところだった。


 意気揚々と支度を済ませて家を出ようとする私に、母が後ろから声をかけた。


「溺れないように、気を付けなさい」


 誰に言っているのだろうか、この人は。私はそんな不遜な考えすら持っていた。私にとって泳ぐことは、何の不自由もなく達成される事柄のうちに入っていた。


 母の声掛けにあいまいな返事をしたまま、私は家を出ていった。私の家からプールまではそう遠くない距離にあったのである。




 ここまで思い出して、私は筆をとることをやめた。ここから先の出来事は、私にとってあまり思い出したくない部類の出来事だった。


 ともかく私は水が嫌いになった。水を飲む。水に入る。ひとつひとつの人間生活に必要な事柄が、私にとっては困難を伴うものになった。


 両親は悲しんだ。そうしてまた、ひどく困惑した。一体生活を送るうえで水は欠かせぬものであるのに、この子はそれを拒絶してしまう。そんな私に、両親もどのように対処していいのやら、分からぬようであった。


 一か月が過ぎた。夏休みは終わろうとしていた。私の水嫌いは、相変わらずのままだった。


 喉の渇きは果物と牛乳で癒したが、肝心の風呂に入ることがどうしても出来ず、母は私を固く絞ったタオルで拭く日々を過ごしていた。そして私は頭を坊主にしなければならなかった。



 

 いきなり丸刈りになった当時の私の事を、同級生たちは奇異の目で見たことだろう。しかしどうしようもなかった。そうでなければ、私は全身を清潔に保つことなど、もはや出来なかった。


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