表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編練習  作者: 太川るい
14/28

下天

「やんぬるかな、もはやこれまで」


 嘉信(よしのぶ)はその場に座り込んだ。


 目の前には真っ赤な炎が燃えている。


「おい、あれを持ってこい」


 嘉信は近くにいた従者に指示をした。


 涙にくれた従者は言いつけ通りのものを持ってきた。


「おお」


 嘉信が目を細める。


「やはり、これが無くてはな」


 彼は手渡された徳利の酒を一人つぎ、クッと飲み干した。


 もとよりその徳利には、一杯分の酒しか入っていないのである。


「さて」


 嘉信は立ち上って振り返り、彼を見守る満座の大衆を見渡した。


「お前たち、これまでの長きに渡る奉公、誠に大儀であった。良くもあれ悪くもあれ、お主らはわしについてきた。そのことは、今後いささかも変わりはせぬ。いつも雷を与えていたわしが、今度は本当の雷になるまでだ。その時には、甘んじてそれを受けい。よく堪えよ」


 嘉信はまた、他方の集団へと目を転じた。


「これで貴殿らへの借りは返せますな。何卒(なにとぞ)、残った者等への扱いは丁重になされよ。万一の時には、いつでも駆け着ける用意は出来ておりますゆえ」


 そこで言葉を切って、彼は天を仰いだ。


「運良く天も開いておる。登るのに、支障はあるまい」


 カラカラと、一人笑う。


 その笑い声はだんだん大きくなっていく。


 そうして最後には、遠くの山まで届くのではないかと思われるほどの、大音声(だいおんじょう)となった。




「皆の者、しかと見られよ。天下一の(つわもの)の自害する手本!」




 轟くような声でそう言い終えると、嘉信は炎の中へ飛び込んでいった。


 炎が身を焼く。めらめらとその勢いは増していく。



 

 しかしそんなことには頓着(とんじゃく)せぬかのように、嘉信の大笑はいつまでも響いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ