サーカス
「さあお立ち合い、今まで見たことのないような、すばらしい芸をごらんに入れます」
時代がかった口調とともに、ピエロの格好をした男が往来に立っていた。
興味をひかれて近付くと、ピエロは愛想よく、私にチラシを渡してきた。
「〇〇サーカス興行 △△公園内にて、××日のみ開催」
色とりどりの文字と、おそらくは団員なのであろう、男性や女性の姿がいかにも楽しそうに描かれている。
「今時分、こんな旧式のサーカスなどやっているのだろうか」
私は幼いころ、親に連れられて見に行ったサーカスの記憶をおぼろげながらも思い返していた。記憶の中のサーカスよりも、このチラシのサーカスは古びているように思われた。
チラシを貰った後、私はそれをポケットにたたんで入れておき、折に触れては眺めた。
存在しないはずのノスタルジーが刺激され、そのチラシはそのあとも私の興味をひいた。
「××日か」
仕事をしながらカレンダーを見る。ちょうどその日は予定が空いていた。
入場料に目を移す。大人にしてみれば惜しくないほどの、安い値段だ。
私は行くことを、何とはなしに決めた。
「お待ちしておりました」
テントの入り口では、あのピエロが受付をしていた。
「あなたなら、お越しになると思っておりました。今日はどうぞお楽しみください」
そう言いながら、ピエロは受付を済ませた。
その顔は、穏やかに笑っているように見えた。