角砂糖
「そうだ、そうだ。その通り」
全く感情のこもっていない表情と声で同意しながら、男はコーヒーをすすった。
「まったくあなたが正しい」
それを聞いて、向かいに座る女性は露骨に嫌そうな顔をする。
「茶化さないでください。私は真剣なんです」
男はコーヒーを半分は飲んだかというところなのに、脇にあった角砂糖を三つほどカップの中に入れた。
しばらくスプーンでかきまわす。
「真剣に聞けという方が無理でしょう。あなたの話は一から十まで馬鹿げている」
男が再びコーヒーを飲んだ。やはり甘すぎたようで、渋い顔をしてから、口直しに隣にあった水を飲んでいる。
「私だってわかってます」
女性はやや落ち込んだように目を伏せた。
「でも、実際にこの目で見たことなんです。どうか信じてください」
再び顔を上げる。その表情は真剣そのものだ。
「ふむ」
男は必死に見つめてくる女性の目からそらすように、視線を上方へ移した。
視線の先では店内の照明が明るく光っている。
「どうにも困りましたな。あなたは本気のようだ」
「最初からそう言っています」
男はすこし考えるそぶりをしてみせた。
「よろしい」
男は立ち上って、たたんでいたコートをはおった。
「ひとつ、見てみましょう。あなたの話が本当なのかどうかも、それで分かる。案内してください」
「ええ、すぐにでも」
女性はほっとした表情を浮かべながら立ち上がった。
奇妙な男女の組み合わせは、そのまま店を出ていった。