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壁の花はダンスの夢を見る

作者: 桐原まどか



はぁ…、とユリはため息をついた。

父に連れられ、参加した舞踏会。しかし…。

父は大物議員のだれそれのご機嫌伺いに行ってしまった。ひとり取り残されたユリは、ぽつねんと壁の花となっていた。

着付け係にこれでもか、とウエストを絞られた為、食事すら覚束無い。仕方なし、炭酸水を少しづつ飲んでいた。

と。

「失礼ですが、おひとりですか?」と声をかけられた。顔をあげると、果たして、見た事のない顔の青年がユリに話しかけてきた。「素敵なレディ、良ければ、僕と一曲踊って頂けませんか?」

ユリはどうしたものか、思案した。勝手な行動をすれば、父に叱られるかもしれない。でも…。

「わたくしで良ければ、お願いします」とユリは答えた。


わずか数分の踊りだった。

だが、彼(名をルースといった)のエスコートは優雅で、楽しいひとときだった。


―ユリは知っていた。

父がいまよりも上の地位に就く為にコネクションを必要としている事。その為に娘を利用しようとしている事…。

狙いは議員の息子とユリの婚姻。政略結婚だ。

ある意味で宿命みたいなもの、とユリは諦めていた。けれど。


―恋というものを味わってみたいな…。

その夜、夢の中でユリはルースと踊っていた。楽しかった、あのひととき…。


ついに見合いの日が来てしまった。初顔合わせ。

父母が両側に並び、ユリは既に辟易した気分になっていた。やはり政略結婚で愛情などないふたり。

どうかすると相手を嫌っている節さえあるのに、もっともっと、と欲望のままに娘を同じ道に落とそうとしている…。

やはり、父母に付き添われ、相手が現れた。

「えっ?」とユリは声をあげてしまった。

現れたのはルースではないか!けれど、聞かされていた名前と違う。見合い相手の名は…

「はじめまして、ヒースと申します」としれっと挨拶してくる。ユリも内心の動揺を気取られぬように挨拶を返した。


両親たちの当たり障りのない、そのくせいやらしい腹の探り合いから、解放されたふたりはバルコニーに出ていた。

初夏の夜空に星がきらめいている。

口を開いたのはヒースだった。

「嘘をついて、済まなかったね、だけど、あぁでもしないと接触出来なかったんだ」

ユリは答えた

「それは別に、何とも思っていませんが…」

―なんだろう…この胸がざわつく感じは…?

ヒースははにかんだ笑みを見せた。

「予想以上に素敵な方で驚いたんだ…僕は君との結婚を前向きに考えたいと思ってる。君は?」

問われて、ユリは自分の心の中で何か弾けた気がした。それは美しく咲き誇る花の萌芽だったのかもしれない。

「わたくしも、前向きに考えたいと思っております」


両親たちがふたりを呼んでいる声がする。

若いふたりは微妙な距離感を保ったまま、そちらへ向かっていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 恋を欲していたユリ、ふたりで踊ることで彼女に近付いたヒース。 ふたりの関係はあくまで親達には明かさず、秘めたままにしていくのでしょうか。 ロマンチックですね……(´ω`*) 壁の花、という表…
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