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白い桜が舞う中で〜黒幕系ヒロインとの恋愛譚  作者: 枝垂れ桜
願いを叶える桜・上
3/14

第3話 テスト前日に海に駆けるのはバカの所業

また例の公園へと足を運ぶと、昨日の夜に咲いていた桜はいつの間にか消えていた。


残っているのは雪のように真っ白な桜の花びら。それだけが昨日、あの桜が存在していたことを示している唯一の証拠だ。


「おや?どうやらもう無くなってしまったようだね」


地面に残っている桜の花びらをつまんでみていると、後ろから声が掛けられる。

昨日の今日だ。流石に忘れはしないが、その大人びた言い回しにどうしても違和感を感じてしまう。


所々に子供っぽさを感じるチグハグさ。謎だ


「まあ、吹き出物みたいなものだからな…すぐに消えてしまうんだろ」

「そうだね…でも、都市伝説風に言えば、願いを叶えたから消えた。そんな風にも言えると思うけどね?」

「都市伝説?」

「知らないのかい?願いを叶える白い桜の事だよ」

「白い桜の都市伝説…あ~~…。なんとなくは…」


憑依した、元の体の中の記憶を掘り起こしてみると、そんな記憶がぼんやりと存在していた。


「人の願い事を一つだけ叶えるという伝説の桜の事だろう?こんな街中に咲いてたら、伝説じゃないだろ…」

「灯台元暗しというじゃないか。もしかしたら、ボクたちの身近にあるのかもしれないよ」

「まあ、確かに…」


とは言っても、昨日見た真っ白な桜はたまたまこの世界に顕現けんげんしてしまった怨霊体アパリティーであるのだろう。時たま次元がバグって現世に姿を現してしまう怨霊体アパリティーがいるのだ。その大抵が無害であることが多い。


有害な奴は、騒ぎどころでおさまらないからな…


「それで、わざわざボクを呼びだして、なんの用かな?」

「遊ぼうって言ったじゃん。でもなんだ?用事が無かったら呼び出したらいけなかったか?」

「そんな…ことはないが…」


碧唯がツンケンするものだからいじわるな質問をしてみると、眉を八の字にして少し困った顔をする。


そんな困った顔もかわ―ゲフンゲフン。

アブナイ、危うくイケナイ扉を開きそうになってしまった。


「とりあえず、どっか遊びに行かない?」

「ああ、構わないよ」

「じゃあ、海行こうぜ」

「う、海かい…」


流石に海に行くとは思わなかったようで、本気か?というような目でこちらを見てくる。


「構わないといったのは碧唯だろう?」

「確かに言ったのはボクだが…ハァ」


常識の範囲内で言ってほしいと言わんばかりの顔でため息を吐く。


「う~ん。海までとなると…自転車か、バスか…。生憎だけどボクは自転車をもってないんだ」

「普通バスじゃね?何?自転車で行きたかったのか?」

「自転車での旅というのもロマンがあるじゃないか」


本当に君はつまらない男だなと呆れた風に溢して、碧唯が話す。


どうしてだろう…なぜか昨日から碧唯にバカにされているというか、なめられている気がしなくもない。


絶対こいつは俺のことを舐めている。分からせなければ…


「いいか、碧唯。よく聞くんだ」

「はみゅ!?!?」


両手でガシリと碧唯の肩に手を置くと、どこかしら可愛い声が聞こえてきたのだが気のせいだろう。


そして碧唯の顔をしっかり見つめれば、口をパクパクとさせながら、顔を真っ赤にしているのもきっと見間違いだろう。


「ここから、海岸まで15kmあるんだ。例えばそこまで自転車で走ったとすると1時間半かかる計算になる」

「コクコク」


コクコクと頭を振りながら俺の話を聞く碧唯あおい


「現在の時刻が4時50分。海に行く時はルンルンでも、帰ってくるときは半ベソかきながら帰ってくることになるんだ。周りは真っ暗の見知らぬ道。時刻は10時を指している。帰ってからやらなくてはいけないテスト勉強。試験は明日の1限。いいか、絶望…なんだよ?」

「分かった。分かったからもうやめてくれ!なんか怖いよ!君!!!」


良かった。これで自転車による被害を事前に食い止めることが出来た…

テスト勉強の気分転換は部屋を片付けで十分。

絶対に自転車で爆走するのは止めた方がいいんだ…


「という訳で…バスで行くぞ」


俺の血走った目に恐怖を抱いた碧唯であった。



§



「なんか、今日波が高いね」

「まあ、海開きはまだまだ先だからな…」


海風を浴びながら波が寄り返す光景を見ているとどことなく、波動方程式はどうほうていしきを思い出す。俺の前世はきっと限界理系学生げんかいりけいがくせいだったんだろう。それも底なしにモテなさそうだ。


きっと波が防波堤ぼうはていに打ち付ける様を見て、「ホイヘンスの原理だ!」なんて興奮していたアホだったに違いない。


「久ぶりに海なんてものを見たかもしれいな。さざ波の音がこんなにも気持ちよかったなんて知らなかった…」


柔らかな風がよそぎ、夕日に照らされた碧唯あおいの黒い髪は輝いていた。その細い髪の毛が風でフワフワ揺れている。碧唯あおいはそれを優しく救い上げ、耳に掛ける。


張り付けたような笑みはそこになく、穏やかな表情で海を見ている


二人の間に響くのはザブーンといった波の音やウミネコの声。無言の時間が続く。


数分だろうか…もしかしたら、数時間かもしれない。太陽がとっくに姿を消して一番星である金星が十字に光りだした。


「碧唯、そろそろ帰らね?」

「そうだね…」


悲しそうに、顔をゆがめる。そうだねと言いながらも、ここを動く気配はない。ずっと体育座りをしたまま、水平線を眺めている。


…ったくしょうがねえな。


「……ちなみに明日は新月かつ雲もそれほど無いらしい」

「…?」


突拍子もない情報に首をかしげる碧唯。控え目に言ってとてもかわいい。


「明日も来ようぜ。きっと今日よりも星が奇麗だよ。それにちょうど金曜日だし夜遅くまで一緒に居よう」

「それは!本当かい!?」


途端に顔をきらめかせる。眩しい笑顔が口元にに広がり、歓喜に満ちた吐息が漏れる。食い気味にそう答えた彼女の眼は光がともっていた。


「それじゃあ、明日に備えて帰ろうじゃないか!!」


さっきまでの雰囲気と打って変わって、鼻歌でも歌いそうなほどにルンルン気分の碧唯。


「そうだね…じゃあ早く帰ろうか…」

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