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月無谷

「見つけたの?」

「うん。多分、そうだ」


元サイトに移動する。

怪しい事故について語り合う<掲示版>、らしい。


<月無谷>の交通事故。一家3人死亡。

被害者は

中村克彦(34才)

  美佐子(32才)

  ユメカ(4才)

 母子の写真の他に

 夫婦の結婚式の写真も出ている。

 

 克彦は小柄で太っている。

 眉毛が太く、パーツが大きい。

 分厚い唇が目立つ顔。

 

 美佐子も小柄で小太り。

 

 ユメカは細い目と、横に広い低い鼻であっさりした顔。

 その顔は母親に似ている。


「中村……同じ名字ね。親戚かしら」

「そうかも。けど、よくある名字だからね」


「怪しい事故?」

「事件臭い、だって」


シモンが殺した3人は

1ヶ月前に、車ごと崖から転落し、即死していた。


「月無谷って、どっかで……やっぱ奈良だ。Y村か」

「近いの?」

「そう遠くない。車で1時間半かな。京都に近い、北の方だよ」


「で、何が怪しいのかしら?」

「事故現場は土砂崩れで通行止め、だった。

 地元で現場を良く知っている人からの情報だね」

 

 事故直後に現場を見に行った、らしい。

 3日前にも土砂崩れがどんなのか、見に来た。

 その時設置していた、看板、コーン、ロープが消えていた。

 復旧工事は始まってもいないのに。


「誰かが、取り去った……シモン君ね?」

「悪質な悪戯……殺人、だよね」

 先で道路が崩れ落ちていると、知らずに走行すれば

 大事故になると、分かりきっている。

 

「セイ、カオルさんに、被害者が分かったと伝えるのでしょ?」

「うん……あ、この一家はワケありだったと、そんな情報もある」

 

 同じアパートに住んでいたという人物が、書き込んでいた。

 

 滋賀県O市駅前、「ハイツ リバーサイド夢」と

 あからさまに、書き込んでいる。 


(この一家は春頃夜逃げした。

 借金取りが最近まで、消息をしらないかと、聞きに来ていた。

 一家心中の可能性有りますよ)


「作り話で無いとしたら、夜逃げ一家が、シモン君が張った罠に掛かった? 複雑ね」

「名字か同じだろ。親戚と仮定する。親しい間柄で何らかの、殺す理由があったんだ」


「セイ、もしも、名字が同じは偶然だったなら、

 愉快犯、無差別殺人も、まだ除外できないね。」

「うん。カオルに知らせるよ。奈良県内の事故だ。

 事故の詳細、被害者一家の履歴、調べてくれるよ」


聖は、結月薫に

(月無谷、一ヶ月前の交通事故、シモンの3人)と、ラインを送った。


すぐに既読になり

1時間後に

(来週金曜日、午後4時。月無谷集合)と返ってきた。

 集合場所のわかりやすい地図が添付してあった。


「10日も先ね。カオルさん忙しいのね」

「そうそう休んでいられないだろうな」

「セイはこの3日間、徹夜したし、大変だったよね。

 カオルさんに会う日まで、シモン君の件は一旦忘れて、まったり過ごせば?」


「うん。……今俺に出来る事は何も無さそうだし」

 

 気分を変えようと

 買ったばかりの(葉っぱが出てくる癒やし系)ゲームを始める。

 ニューキャラの、丸っこい犬が可愛いと、マユも楽しんだ。


 夜が更けて日付が替わっても

 まだ、遊んでいた。


 そして早朝に、猛烈な雨と風。

 巨大な台風の到来だった。

 停滞し、巨大化し、進路を変えて

 近畿に上陸した。


 薫が月無谷へ行くのを先延ばしにしたのは

 単に台風都合かと、聖は思う。

 

雨で土砂崩れしたような場所。

台風の最中も、直後も、見に行くのは危険に違いない。


そして約束の金曜日。

空は見事に晴れていた。


聖は白衣のまま、愛車ロッキーで

現地に向かった。


県道から谷へ降りる、ガードレールも無い細い道。

県道に「この先通行止め」の看板が出ていた。


聖は先へ進み、車を停める場所を探した。

500メートル先に、

小さなプレハブが建っていて50坪ほどの平地が、あった。

車を回すには充分な広さだ。

そこで車を降り、細いクネクネ道を歩いて下る。


3番目のカーブの先で、道は崩れ落ちていた。


まだ復旧工事は、始まってもない。

通行止めの看板と、コーン2個にロープを張って

先へ行けないと、分かりやすく表示している。


辺りが、妙に薄暗い。

何時かと、携帯電話で確認。

約束の時間より10分早く着いた、と知る。


「まだ4時前なのに……なんでこんなに暗いの?」

辺りを見遣る。

大木が、常時太陽の光を遮断しているのだと、分かった。


「これじゃあ、月も見えないな……それで月無谷、かな」


湿った土と枯れ葉の臭い。

工房裏の森と、同じ臭いだ。


同じような山奥で同じような臭い。

けれど、此処はとても静かだ。

それは、近くに川が無いから、なのだろう。


では、

この道を下る目的は、渓流釣り、では無い。

河原でキャンプも除外。


薫が送ってきた地図では、この道の突き当たりに家が2軒並んで立っている。

そこが行き止まり。

道に迷ったので無ければ、

被害者は2軒のどちらかを目指していたのか。



「セイ、はやかったな」

午後4時丁度、結月薫到着。


「へっ?……あ……、誰?」

聖は

驚きの余り、指に挟んだタバコを落としてしまう。


結月薫は、いつもの中型バイクでやってきた。


後ろに、<大きな人>を乗せて。


その人はグレーと黒の細いストライブ生地のスーツ。

(この暑いのに)エンジのネクタイをきっちり付けている。

見るからに高級そうな金ピカの腕時計。

革靴も凝ったデザイン。


全身が高級品オーラを放っている。

誰?

このリッチな装いは何者?


「剥製屋さん。また会えましたなあ」


ヘルメットを脱いで、

鈴森が

微笑んだ。




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