マユのアドバイス
「セイ、……大変な1日だったわね」
マユは言葉では労い、
好奇心で瞳キラキラ。
「綺麗な男の子は19才の青年だった。
死んだお爺さんには、熊のぬいぐるみ、みたいな友人が居て、
その『熊さん』が、お爺さんに頼まれて犬を安楽死させたのね。
熊さんは……、アリスを剥製と見破ってる。……思いも寄らない展開ね。っていうか、
思いがけない出会いかも。セイは、熊さんに、また会いたいんじゃないの?」
「鈴森さんとは、又会えると思う。カオルが誘ってたから。
だけどさあ、中村家との繋がりは切れたかも。
爺さんと犬の件が、あっさり片付いたから」
「人殺しのシモン君にもう会えないかもしれないのね……誰を殺したのか探れないじゃない」
「うん。もうあの一家と会う理由が無くなった」
「こんなにあっさり終わるなんて予想外ね。せっかく徹夜でアリスに細工したのにね……あ、でもね、鈴森さんから情報を得られると思うの」
「あの人から?」
「ええ。お爺さんからシモンくんの話、聞いてるんじゃ無い? 可愛い孫でしょ」
「そりゃあね。だけど可愛い孫だったかは、分からない。俺はね、老人は自殺したと思うんだ。記憶障害を自覚していて、その上に孫を化け物と認識していた。かろうじて犬の為だけに生き長らえていたような……そんな気がする」
「犬を置いては死ねなかった……そうかもしれないわね」
「犬の病気も末路も知っていて、いよいよ終わりが近づいてきてると分かって……でも自身が頼りに出来なくて友人に最期を託したんだろ」
「思い残しが無くなり安心して、犬より一足先にあの世へ行ったの?」
「そうだろ。……俺の推測が事実かどうか、鈴森さん聞けば、わかるよね。でも、肝心のシモンのコトは、特殊な病気ってくらいしか知らないかも」
「祖父と孫は冷たい関係だったの?」
「うん。自殺したい理由の1つだろ。『化け物』呼ばわりしてたんだし」
シモンは言っていた。
(お爺ちゃんは『跡取りが化け物では中村家は、おしまいだ』って嘆いてた。可哀想でした)と。
「そうなの……化け物は、悲しい言葉ね」
「うん。シモンは人殺しだけど、可哀想だよ。両親は凄く大切に扱っているけど」
「なるほどね。ところで、鈴森さんは何時から養豚所に?」
「え?……聞いてないけど。なんで?」
「お爺さんは半年前から同居、よね。鈴森さんの方が長い間、シモン君を見ている可能性も有るんじゃ無いかと」
「確かにそうかも。田んぼの中の一本道なんだ。養豚所に行くには必ず家の前を通る。そして道路から庭は丸見え。ずっと見てきたかも知れない」
「シモン君が殺した3人も、見てるかも」
「成る程。それも有り得る。殺された一家は、中村家と親しい関係だったかも」
<人殺しの徴>は、
同じ結婚指輪をした男女と、
5才くらいの子供の手。
聖は家族と認識していた。
だが、
マユは初耳と、驚いた。
「家族って……そこまで分かるのね。凄いわ」
「いや、子供と夫婦の関係は、憶測だよ」
「夫婦は、確かなのね」
「まあ、そういうことかな。結婚指輪、見たから」
「結婚指輪ですって!」
マユは立ち上がり、静かに歩く。
何か考えている。
「あ、そうだわ」
答えが出るまでに長い時間は要らなかった。
「家族と仮定しましょう。3人同時に殺されたと想定し、該当する事件、事故を探してみない?」
マユの視線はパソコンへ。
今すぐ検索しなさいと、言っている。
「そだね」
探せるのか?
<一家3人死亡>とでも打ち込んでみるの?
沢山、出てきたんだけど……。
一家、3人、死亡、単語に一致する関係なさそうなのが一杯。
「年齢が一致する家族の……画像で探しましょう。その方が早いかも」
マユは隣に座り、真剣な眼差しをディスプレイに向ける。
「画像検索、してみたよ」
3人家族でもない画像が殆ど。
3人家族の写真も、事件性の無い、ただの家族肖像だったりする。
年齢が範囲内の画像を、一枚ずつ元を辿る。
映画の写真だったり、ブログだったり……。
1時間、探し続けても、該当する家族は出てこない。
(ちょっと休憩する)
マユに言おうとした、その時に、
一枚の画像に、視線が止まった。
不気味な写真だと……思った。
女が、子供を抱いている写真だ。
若い母親と、4才くらいの女の子。
母親は微笑み、子供も歯を見せて笑っているが、
聖には、死者の写真に見えたのだ。
画像をアップしてみる。
母親の左手に、見覚えのある細いリング。
シモンが殺した女に違いなかった。