シモン
神流 聖:30才。178センチ。やせ形。端正な顔立ち。横に長い大きな目は滅多に全開しない。大抵、ちょっとボンヤリした表情。<人殺しの手>を見るのが怖いので、人混みに出るのを嫌う。人が写るテレビや映画も避けている。ゲーム、アニメ好き。
山本マユ(享年24歳):神流剥製工房を訪ねてくる綺麗な幽霊。生まれつき心臓に重い障害があった。聖を訪ねてくる途中、山で発作を起こして亡くなった。推理好き。事件が起こると現れ謎解きを手伝う。
シロ(紀州犬):聖が物心付いた頃から側に居た飼い犬。2代目か3代目か、生身の犬では無いのか、不明。
結月薫:聖の幼なじみ。刑事。角張った輪郭に、イカツイ身体。
山田鈴子(ヤマダ スズコ50才前後):不動産会社の社長。顔もスタイルも良いが、派手な服と、喋り方は<大阪のおばちゃん> 人の死を予知できる。
桜木悠斗:山田動物霊園の住み込みスタッフ。元ホストでイケメン。
アリス:悠斗の飼い犬。元剥製。化け犬。
台風が接近しているというので、
風が強い。
が、空は晴れ渡っている。
そんな6月の日曜日
神流剥製工房にアポ無しで客が来た。
聖はシロと昼ご飯を食べ終え、タバコを吸っていた。
いきなりドアがバタンと全開。
外に3人立っていた。
ゴウゴウと山の木々を揺さぶる風がやかましく
客のノックは聞こえなかった。
ドアのノブを触ってみたら風で勢い良くドアが開いたようだ。
「こんにちは」
と男が大きな声で言った。
隣で女が頭を下げる。
40代の、夫婦に見えた。
男はビジネススーツにネクタイ。
女はベージュのシンプルなワンピース。
2人の後ろに、もう1人。
ハッキリ見えないが少年か。
男が段ボール箱を抱えているので
客だと、分かった。
「いらっしゃいませ。……どうぞ、中に」
聖は急いでテーブルの上を片付け、
食器とシロを作業室に。
夫婦は棚の剥製をゆっくり眺めながら部屋の奥へ異動。
少年は……何故か入ってこない。
「シモン?……あ、外で待っていて、ドアを閉めて」
母親が、少年に言った。
「あの子はタバコの臭いが苦手なんです」
父親が早口で状況説明。
「あ、スミマセン」
聖は成り行き上詫びた。
ちょっと嫌な感じだと警戒。
アポも無く突然来た客。
夫婦の表情はどこか険しい。
ペットを無くした悲しみ以外の不穏な気配を感じる。
さっさと話を終わらせよう。
金額聞いて帰るかも。
応接セットに向き合って座る。
名刺交換。
男の名は中村正一
N大学広報課 課長。
「見せて頂いても?」
早々に切り出した。
「あ、その前に説明させて下さい。……神流さんは様々な殺人事件解決に関わっていると、聞いて伺いました」
と、中村。
「はあ……」
聖は言われた文言が想定外すぎて
否定すべきかどうかも判断できなかった。
「かいつまんで言いますと。2週間前に私の父が亡くなりました。隣町の川で。警察は事故と判断しました。しかし私どもは殺されたかも知れないと疑っているのです……」
故人は77才で認知症が始まっていた。
問題行動が有り、近所に迷惑をかけていた。
と、妻が補足。
「親父は犬を探しに遠くまで歩いて行ったのだと。前の日に犬が居なくなるという事があったので……その犬がですね、昨日近くのマンションのごみ置き場に……」
「えっ……」
聖は死後2週間経過した犬の死骸を想像。
(腐りきってるんじゃないの? 剥製に出来るのか?)
「見つけたときは、まだ柔らかく血も乾いていなかった」
「そうですか。迷子になり交通事故にあったのかな?」
中村は、これには答えずに
携帯の画像を見せた。
犬が、映っている。
柴犬の顔と体型で、毛はモフモフ。
可愛らしい茶色の雑種犬。
かなり高齢。
入り出し窓でお座りしているのを
外から撮った画像だ。
「神流さん、『モコ』は、眉間をキリのような物で刺されていました」
中村が掠れた声で言った。
「えっ?……誰かが、殺したってコト?」
最初に(脱走歴の無い)老犬が居なくなり
探しに出歩いた認知症の老人が川で溺れ
2週間後に、(殺されて間もない)犬が捨てられていた。
「誰かが、犬を囮に使い、親父を川へ誘き出したかもしれない……」
近所の誰かでは無いかと。
疑いは恐怖に替わり、居たたまれない。
狼狽えた頭に、どうしてだか……神流剥製工房の名が浮かんだ。
まるで生きているような剥製を作る男が居ると、友人に聴いた話を思い出したのだ。
その剥製屋は、あの猟奇殺人事件や、この前の、生首事件にも……、とも聞いた。
「モコが死んだと、私も妻も誰にも話していません。息子にも口止めしました。家族以外誰も知りません。知っているのは犯人だけでしょう」
中村は<モコ>の(生きてるような)剥製を窓辺に置くという。
また、あの犬が、いつもの場所で寝ていると見間違えるように。
近所の住人なら見慣れた光景。
誰も訝らない。足も止めず、二度見もせず通り過ぎるだろう。
<モコ>を殺した奴だけが、何らかの反応を見せるにちがいない。