第十四話 仕返と既視
食事の出来上がりを待たずして、私は寝かされていた部屋へと戻る。盗み聞きを見られたくはなかったし、何よりも、みんなが私に秘密にしようとしてくれているのだ。わざわざ自分から、その気持ちを打ち崩す必要もない。
部屋に着くなり布団へと潜り込み、頭まですっぽりと布団を被る。そして、わき上がる微笑みを抑えきれず、一人密やかに笑った。
…嬉しかった。死ぬことが決まった私に、笑顔で接してくれることが。今までと変わりなく、共に過ごしてくれることが。
……私は死ぬ。前に目の前でてゐが死んでいったように。…いや、てゐが死ぬことに代わって。
前の世界と今の世界。違うようで違わない、瓜二つのようで全てが違う、二つの世界。両方の存在を知っているけれど、今の私がいるのはこの世界。そして、私が望むのもまた、この世界。だから、この世界で私は死ぬ。
一頻り笑うと、何とか平静を取り戻すことが出来た。幸せな気持ちは変わらないが、今は真顔で天井を見上げることが出来ている。
遠くから、幾つかの足音が近付いてくる。それに加え、食器であろう物がぶつかる音や話し声が混じり、少々騒がしい。だが、それですら嬉しさと少々の懐かしさが感じ取れるのは何故だろうか。
「優曇華、お昼にしましょう」
「…ちょっと永琳、なんであんたが一番軽い物を持っているのよ。薬だけだとか」
「そ…そうですよ」
「優曇華を虐めた罰ですよ。ほら、私が机を準備するまで、そのまま持っていて下さいね」
こういう時の師匠は、本当に楽しそうな笑顔を浮かべるものだ。普段は小難しい表情が多いのに、茶目っ気がない訳ではない。それがまた、私に笑みをくれる。
「あら、優曇華。だいぶ良くなったみたいね。顔色も良くなったわ」
師匠は部屋の隅から運びかけた机を置いて、私へと近付いてくる。そして、僅かばかり舌を覗かせながら、おでこに手を当てた。
「え〜っと、熱は落ち着いたみたいね」
「永琳、余所事はいいから、早く! 机!!」
「はいはい、今やりますから」
姫様やてゐが必死になるのも無理はないかもしれない。姫様は四人分の茶碗におかずが乗った盆を持ち、てゐは粥が並々と炊かれた大鍋を持っている。まだ姫様は軽いが、てゐが持つ鍋はそれだけでもかなりの重量があるのに、それに加えてあの量の粥となれば、相当の重さになっているに違いない。それを証明するように、鍋の取っ手に食い込んだてゐの指は白く変色し、表情にも余裕がない。
それを横目に、のんびりと机を準備する師匠。そして、机を置いた師匠は、おもむろにてゐから鍋を受け取った。
「重かったでしょう。てゐは座布団の用意をお願い」
「なんで!? なんで私じゃなくててゐの方を持つのよ?」
「だって、姫様元気そうじゃないですか」
「…う〜、覚えてなさい。いつか必ず、やり返してやる」
「楽しみにしておきますわ」
のらりくらりと躱す師匠に、その後も姫様はぶつぶつと呟いていたが、食事の支度が進むにつれてそれもなくなっていった。
私の寝ていた布団もあっと言う間に片付けられ、気付けば四人が揃って座っている。
「さて、それなら頂きましょうか」
師匠のその一言を皮切りに、各々は好きに食べ始める。合掌もしていないが、それがいつもの永遠亭の食事風景だ。
粥もおかずも大皿に盛られ、個人が好きなだけ取り分けるようにするのも、ここでの食事の特徴だろうか。
ざっと卓上を見渡すと、今日は主食が粥であるために、おかずもそれに見合ったものばかりである。漬け物、炒め物、煮物。どれも味を濃くすることで、水分の多い粥との調和を取るようにしている。
いつもなら我先にと手を出すが、体調の所為かどうにも食欲が湧かず、箸を持って眺めるのが精一杯だ。本音を言えば、部屋にあふれるこの匂いをかいだだけで、もうお腹は一杯である。折角作ってもらったのに申し訳ないが、どうしても箸を付ける気にはならない。
「だめよ、優曇華。食べないと良くならないし、薬も飲めないんだから」
動かない私を見かねてか、師匠は私の小皿を取るとおかずを少しずつ取り寄せる。そしてその皿を、半ば強引に私に押し付けた。
「それは絶対に食べなさいね。みんなが優曇華の為を思って作ったんだから。それと、食べないと薬が飲めないわよ」
おおよそ、薬を飲ませたいのだろう。確かに、症状を抑える為には服薬するしかないみたいみたいだし、その薬で内蔵を痛めたとあっては、逆効果になる訳だし。
それに、みんなが作ってくれたというのも、紛れもない事実である。一口も手をつけないのは、あまりに失礼だろう。
「…この梅干しを叩いたのは」
「私が作ったのよ! イナバ、梅干し好きだったでしょ?」
「そ、そうですけど…
姫様、梅干しは苦手だったのでは?」
「頑張ったのよ」
「姫様は包丁で叩いて、皿に盛っただけではないですか。種抜きは全部てゐにやらせて」
「うるさいなぁ…
味付けは私がしたんだよ。ちゃんと」
梅干しに味付けって…。そもそも強い塩気と酸味があるものに対して、どう味をつけるのだろうか。塩、酸とくれば…甘みくらいしか思いつかないのだが。苦手な人ならば甘味を加えれば食べやすくなるが、私は梅干しは梅干しらしい方が好きだ。
「…あれ? 昆布ですか?」
「そうよ。梅昆布茶なんてものがあるんだから、合わない訳はないでしょ?
っていう憶測で入れてみたんだけど、どうやら成功したようね」
最後に「味見すらしてないけど」と自慢げに断言する姫様。…苦手なのはわかるけど、他人に食べさせるのに確認もしないとは。正しく、姫様らしい。
まず、姫様が作る料理は大概変わっている。独創的、とでもいうのだろうか。料理の形式は守るのだが、材料や味付けは定まっていた試しがない。
けして、不味くて食べられないとかそんな訳ではない。むしろ、美味しい時には信じられない程美味しい。ただ、二度と同じ味にはならないだけである。
本人曰く、“いつかは、同じ物が作れる”と言ってはいるが、永遠を生きる姫様の“いつか”とは、一体どれほど先の話かはわからない。ちなみに、上手くいかなかった料理については、姫様自身が手をつけることはない。
姫様は、一人料理について語っている。余程梅干しを調理したことが印象に残っているのだろうか、いつもよりも言葉に力が入り、何よりも楽しそうだ。もしかしたら、さっき師匠に弄ばれたことを根に持っているのかもしれない。
その一方で師匠は、熱弁を振るう姫様をただ見つめているようだった。口元は弛んでいて、僅かに浮かぶ微笑みに、まるで優しさが溢れているようだ。師匠は姫様の側近ということもあり、姫様が楽しそうな時は大概、嬉しそうにしているものである。
そんな中、一人静かなてゐがこの雰囲気に相容れない気がしてならない。よくよく見て見れば箸も進んでいないし、盛り上がる姫様を見ている訳でもない。ただただ自分の持つ椀を見つめ、茫然としている。
「ところで」
姫様の言葉を遮るように、一言ほど声を上げる。二つの視線が私を射抜くのを感じたが、それには気づかぬようにして、私は言葉を続けた。
「てゐは、どの料理を作ったの?」
「……え? …ごめん、聞いてなかった」
「…てゐが作ったのは、これでしょ」
「う、うん…。でも、なんでわかったの?」
「だってこれ、てゐの得意な料理じゃない。いつも食べてるんだから、わかるよ」
「いつもは、もっと野菜を大きく切るんだけど、今日は、鈴仙が病気だから……」
てゐはそこまで言いかけると、おもむろに椀と箸を置く。そして、“ごめん”と謝りながら、席を立って部屋を急ぎ早に出ていった。
部屋はしん、と、静まりかえる。開け放たれたままの襖からは冷気が潜り込み、まるで暖かい空気を外へと追い出そうとしているかのようだ。
未だに、私の皿にはおかずが残り、椀に注がれた粥も、ほとんど手をつけていない。だが、最早食欲などもなく、気持ちはてゐに向かっている。姫様や師匠も唐突なことに驚いているのか、呆然とした様子で襖を見つめていた。
そうだ。私もそうだった。てゐが死ぬと言われた時から、何かがおかしくなったのだ。
強いていうなら、周りが見えなくなること。自我が全てを支配し、他人は排除しようとする。そして一人になってから、自分の行ったことをひたすらに後悔する。ただ、これの繰り返しである。
私の場合は、てゐの死を師匠になすりつけた。ただ人の所為にして、現実から目を背けた。だからこそ、私は師匠と喧嘩して、姫様に打たれて。そして、眠れない夜を過ごした。
それに比べてみれば、てゐは私よりもずっと大人びていると思う。私の死を知ってからも落ち着いていて、笑顔でいようと、みんなに働きかけた。その場の感情で動いていた私とは、まるで違う。
でも、やっぱり耐えられないんだ。死に行くことはわかっているはずなのに。元気に見せるてゐを見ていると、“死ぬ”ということを段々と認めたくなくなってくのだ。師匠の言っていることは冗談で、今からもずっと、あの笑顔が続くものだと、私はそう思ってしまった。だから。
実際に、元気でいる姿を見ると悲しくなるんだ。それは永遠には続かないのだと悟ってしまうから。だから、だから、泣きたくなる。泣きたくなんかないのに、笑顔を見せてあげたいのに、悲しさが爆発する。もう、抗うことの出来ないことのように、涙が流れ出してくる。
でも、泣く姿だけは見せちゃ駄目だって、余計な心配はかけちゃ駄目だって。その気持ちが、距離を取らせる。遠慮を生む。だから、避けるようになる。逃げてしまう。
これは、前の世界の私であれば、わからなかったことでもある。この世界で自分が病気になり、周りを落ち着いて見ているからこそ、そして、一度自分が体験しているからこそわかるのだ。ここから逃げ出したくなるてゐの気持ちが。一人で、私の死を否定したくなる、気持ちが。
前の世界のてゐも、今の私と同じ気持ちだったのかもしれない。自分が死ぬことをすっかり受け止めてしまって、逆に落ち着いて。焦燥する私に、手を差し伸べてくれたのかもしれない。それがあったから私は師匠らと仲直りし、そして、てゐと笑うことが出来た。
だがそれは、現実から逃げていては絶対に出来ないこと。てゐが私に、現実を受け入れる勇気をくれたから、出来たこと。
私は、その恩を返す時にあるのだろう。てゐが焦り、周囲が見えなくなっているのなら。私が手を差し伸べて、抱きしめてあげれば良いだけのこと。勇気を出さないといけないのはてゐだけど、そのきっかけを作るのは別に当人でなければいけない訳ではない。
…この考えは、あくまでもてゐが私の死を受け入れていないことが前提だけど、多分それは間違いのない事実。
……部屋を出るてゐの頬に、涙が見えていたのだから。
「優曇華、ちょっと待ちなさい」
てゐを追う為に席を立とうとした私を、師匠は手を掲げて制止する。そして、幾つもの薬包紙を机に置き、その内の一つの封を開けた。
「これは、あなたの症状を抑える薬よ。これを毎食後に、必ず服用すること。それと、もしも私のいない時に体調が悪くなったら、すぐに服用すること。わかった?」
開いた薬包紙を師匠から手渡され、いつの間にやら目の前には水の入った湯飲みまで用意されている。毎食後、ということは、今も入るに違いない。
意を決して、私は口の中に粉薬を放り込んだ。
…味は、予測以上に最低だ。最も、師匠の作る薬に味が良い物なんてあった試しがないが、それにしても今回は苦すぎる。いくら口に水を含んだところで、どう足掻こうとも飲み込むことが出来ない。それでも、これで体が楽になるならと、必死に飲み込んだ。薬を押し戻そうと胃が必死にのたうち回っているが、仕方のないことだと諦めて、あまり気にしないことにする。
「……これで、体調も少しは良くなりますよね」
この質問は、自分でも意地が悪いと感じてしまう。私には病気のことを教えたくないのに、薬を飲んだら良くなるのかという質問。
案の定、師匠は言葉につまり、姫様は顔を背けた。
「え、えぇ…。すぐに、良くなるわよ」
俯きながら、師匠はそう呟いた。私からは表情すら見えず、声にはあまりにも覇気がない。沈黙が続く中、私は席を立ち、開け放たれた襖へと向かった。
「てゐの所に行くんでしょう」
「はい」
「……情けないことだけど、私たちではてゐにどうしてあげることも出来ない。だから優曇華」
“てゐのことは、あなたに頼んだわ”
それだけ言い切った師匠に、返事と共に私は持ち得るだけの精一杯の笑顔を返した。その時の師匠は、あまりにも悲しい微笑みを浮かべているだけだった。
静かに、襖を閉める。暖かい空気は遮断され、着込んでいるにも関わらず冷気は絡み付いてきて、思わず身震いをしてしまう。
…何故、今の私にはこんなにも緊張感がないのだろう。今から、もしかしたら修羅場になるやもしれない、その可能性も否定出来ないのに、この落ち着きはどこからくるのだろうか。
この落ち着きは、前の私にはなかったもの。むしろ、落ち着いていたのはてゐの方。だから、私がなだめられていた。
…前の世界とはてゐとの立場が逆転した今。私が、てゐをなだめる時であろう。
「てゐ?」
彼女の部屋の閉め切られた襖に向かって呼びかけてはみたが、もしかすれば、部屋には戻っていないのかもしれない。ただ、部屋の中からは人の気配がするようで、思わず声をかけてしまった。
「鈴仙?」
気配の通り、部屋の中からは返事があった。ただ、それ以上の返事もない。流石に、自分の名が返ってきただけで部屋に押し入るのは、気が引ける。
「てゐ、入っても良い?」
返事はない。廊下には、肯定とも否定とも取れるような沈黙が流れるが、勝手に良い方に解釈して、襖に手をかけた。
私が襖を開けた瞬間、てゐは鬱ぎ込んで私に背を向けてしまった。おおよそ、私が無理に入ってくるとは考えていなかったのだろう。そして、見られたくないからこそ、そっぽを向いてしまったのではないだろうか。
「…てゐ、何で泣いているの?」
「泣いてなんか、ない」
「なら、顔を見せてよ」
諦めたかのように、おもむろに振り向いたてゐの瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。目は赤く充血し、今にもまた泣き出しそうな表情を浮かべている。
「やっぱり泣いているじゃない」
「……そんなことよりも!」
てゐは頭を勢いよく数度振ると、袖で頬についた涙を拭った。そして私に向き直りながら、言葉を紡ぐ。
「体調の方は大丈夫なの? 寝てた方が良いんじゃないの?」
「う〜ん…
薬の副作用なのかどうなのかわからないけど、とてつもなく眠たいわね」
「…じゃあ、何で私の部屋にきたのさ」
「特にこれといって用事はないけど。お話がしたかった、っていう理由じゃ駄目かな?」
「…別に…だめじゃないけど」
「なら、お邪魔するわね」
てゐが否定しないことを確認してから、私はてゐの部屋へと入った。
いつもと変わらない質素な部屋。見渡しても火鉢などはなく、あまり温かいとは言えない。ただ、てゐがいるからか、廊下よりは幾許か温度は高いようだ。
「……てゐって、嘘つきよね」
私は座りながら、そう呟いた。
我ながら、会話の初めの言葉ではないとは感じるが、少しばかりの無理はご愛敬ということにしておく。
「……いきなりご挨拶ね」
「そりゃ、今まで沢山の嘘をつかれてきたし、悪戯されたことだって、さっきみたいにくすぐられることだって、一杯あったし」
「……」
「てゐはどう思っているのかは私にはわからない。でも、私はてゐに感謝してるんだ」
「感…謝?」
「そう、感謝。
多分、私の気付いてない所で、一杯迷惑をかけていたと思うの。その度に、さりげなく私を助けてくれていたんだろうな、って、今頃になって、気付いたの。そして、私はもう逃げない。言葉を閉ざすから、誤解が生まれるの。それだから、てゐに迷惑をかけてしまう」
今までは、私の自己満足だったから。私の一方的な行動だったから。
だからてゐに伝わらなくて。傷つけてしまって。でも、それで私も賢くなったんだ。
相手を想うだけだと伝わらないということ。どれだけそれが相手の為であっても、理解してもらえなければ、それはただの偽善であるということを。
…ずっと、気付いて欲しかったんだよね。自分がしていることを。嘘でも、冗談でも。それで振り向いてくれることを信じて、続けてきたんだよね。だから、嘘をついた時でも、冗談をついた後でも、あんなに悲しそうな顔をして。
でも、私も私だった。一方的に良しとすることが、相手を認めることじゃなかったんだ。私の中で嘘を認めたって、てゐにはなんの関係もないんだから。いくら逃げ道が出来たところで、だれもてゐには気付いてくれないんだから。
彼女に本当に必要だったのは、逃げ道なんかじゃなかった。私は彼女の求めるものを履き違えて、あろうことか、自己満足を満たす為に、逃げ道というものを作った。それを使うのも使わないのも彼女の自由、ということにして。
それを彼女に伝えてないのに、伝わる訳がない。私は何を勘違いしていたのだろうか。何故高慢に浸っていたのだろう。
もう、伝えることを迷ったりはしない。もしもそのことでぶつかったとしても、それは私の本心で、相手に知ってもらいたいことなのだ。それに躊躇う必要なんてない。ましてや、てゐの為を思ってのことだ。それが私の高慢であったとしても、理解くらいはしてもらえるはずだ。
「てゐは、私に嘘をつかないんでしょ?」
「……うん」
「でも、自分には嘘をついている」
「……」
「辛いはずなのに、辛くないと言う。苦しいはずなのに、苦しくないと言う。自分が助けて欲しいはずなのに、他人を助けてしまう。それで、最後には一人になってしまう」
「…鈴仙?」
「嘘をつくなとも、悪戯をするなとも言わないし、私には止める気もない。…でも、私に嘘をつかないというのなら、お願いだから自分にも嘘をつかないで」
てゐの瞳には、うっすらと涙が溜まり、口元は一文字に結ばれた。それでも、止める訳にはいかない。…いや、止めたくはない。
「もっと、私に頼って良いから。不甲斐ないところも多いと思うけど、お願いだから一人で悩まないで。抱え込まないで。
泣きたい時は、泣いたら良い。笑いたい時も、笑ったら良い。無理に涙を堪えたり、笑顔を作る必要なんてないんだから」
最後に、“ね?”と後押しををして、私は口を閉じた。てゐは涙こそ流すものの、声には出さない。服を皺になる程きつく握りしめて、白くなるまでに唇を噛みしめて。涙を抑えているのがよくわかる。
私は少しだけ微笑みを浮かべて、ゆっくりとてゐに近付いた。そして、ゆっくりと抱きしめる。
「……抱きしめるのは、反則だよ」
ぼそりとそう呟いてから間もなく、私の胸の中で、彼女は泣き崩れた。