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第一話 割れた薬瓶

この作品を読むに当たり…


・この作品は、「東方project」を元とした二次創作小説です。

・年齢制限をつけるほどの表現はしませんが、同性愛とも取れる表現が出てきます。

・終わり方がバッドエンド(読者様の捉え方によりけりですが。ちなみに作者としては、そこまでのバッドではないと思います)


以上のことが苦手と言う方は、この小説を読むことはお控え下さい。気分を害される恐れがあります。


また、

・原作と設定が異なる

・作者のキャラクターの捉え方が、自分(読者様)の捉え方と違う

・更新が遅れる可能性がある(可能性大)


以上のことを容認される方のみ、本文をお読み下さい。


この小説は、私が友達から原案(原案というか…きっかけかなぁ)をもらい、それを小説化した物です。不備も沢山あり、稚拙な文章になるとは思いますが、読者の皆様にお楽しみ頂けるよう出来る限りの努力は致しますので、宜しくお願いします!

 “彼女は何故、嘘をつくのか”


 私が彼女と会ってからというもの、これを考えなかった日は皆無と言っても間違いはないだろう。それほどまでに、彼女はいつでも、飽くことなく嘘をつく。

 正確に言えば、嘘をついているとよく耳にする。私も彼女に嘘をつかれない訳ではないが、何故だか、周囲の人が嘘をつかれる割合の方が多いのだ。…そう。まさに今の状況を引き起こしたのがそれであるように。とはいっても正確に言えば嘘ではなく、悪戯になるのだが。


「優曇華っ! ちゃんと人の話を聞いているの!?」


 そう言い終わらない内に、私の頭にはげんこつが振り下ろされる。そのお陰で私は少しの間、頭頂部に広がる激痛に悶絶せねばならなかった。


 今、私の目の前で激怒しているのは、我が師匠である八意永琳。元々は月の人だが、紆余曲折を経て、今では幻想郷で落ち着き、迷いの竹林の中にある“永遠亭”と呼ばれる場所ででひっそりと暮らしている。

 かく言う私もその永遠亭で暮らしている内の一人だ。そして私自身も月から来た訳で、今は莫大な知識、特に薬学に精通している永琳に師事している、薬師見習いである。


 私が初めに考えていた、“彼女は何故嘘をつくのか”という問題。

 彼女とは、私と同じく八意永琳を師と仰ぐ、因幡てゐのことだ。最も、てゐは特に師匠から薬学を学んでいる訳ではないのだが。それでもてゐは、私たちと同じく永遠亭で生活を共にしている。

 そんなてゐだが、今はこの場にはいない。本来であれば、彼女が今の私のこの場所に座り、師匠のお小言に耐えねばならないはず。それなのに、彼女は師匠が来る前にどこかに隠れてしまった。そして、私は問答無用でお説教へと引き込まれてしまったのだ。


「…それで? 言い訳を聞きましょうか」


 一頻り怒鳴り散らかしたからだろうか。鬼面の形相だった師匠の顔は幾許か日頃の表情に近くなり、紅潮していた頬も赤みが薄らいできているのがわかる。ただ、眼光の鋭さだけは先程から一切変わっていない。いい加減なことを言おうものなら、またしてもげんこつが飛んでくるに違いない。


「それは、てゐが薬の入った瓶を割って…」


 きちんと、正確に弁明したはずなのに、私の頭にはげんこつが衝突する。あの細い師匠の腕のどこにこれだけの力が蓄えられているのか、私には未だに理解が出来ない。

 それでもとりあえず言えることは、今のげんこつはどこまでも理不尽だ。


「全く…

罰として、薬を買い直してきなさい。今すぐ」


「今すぐって…

人間の里まで行くと、帰ってこれるのは夜中ですよ?」


「問答無用!」


 私は半ば蹴り出されるようにして、人間の里まで買い出しに行くことになった。

 てゐが割ったあの薬は、師匠に頼まれて私が今日の朝方に買ってきた物だった。師匠としてもその薬がどうしても必要だったらしく、私に頼むその姿は、少し切羽詰まっているようにも感じられた。だから私も急いで買って来たのだが、それをてゐが割ってしまったのが全ての事の原因。それも、事故で割れた訳じゃなく、てゐはあの時に明らかに故意に割っていた。何故、彼女があんな行動に出たのかはわからない。だが、故意にやっていたにも関わらずふざけている風にも見えず、むしろ真面目な表情に感じられたことが、見ていてただただ不思議だった。



 溜息混じりに、私は人間の里へと足を向ける。急がなければ、里の薬屋が閉まる可能性があるからだ。もしもこのまま薬が買えないなんてことになれば、確実に師匠に大目玉をくらうことになる。先刻の説教のこともあったし、それだけは勘弁願いたい。

 いつもの竹林。季節は冬。見慣れた竹林はどこを見渡しても元気が無く、春を待ちわびているようだった。雪も積もってはいるが竹に邪魔されるのか、竹林の地面にはそれほど積もってはいない。ただ温度だけは変わるはずも無く、吐く息は白く輝き、薄れ、どこへともなく消えていった。



「鈴仙…」


 人間の里への道を急ぐ中、不意に後ろから声をかけられる。

 振り向けば、今回の事の発端人、因幡てゐが立っていた。彼女は寒さには強いのか、この寒さの中かなり薄着の服を何枚か重ねて着ているだけで、傍目にはかなり寒そうに映る。それなのにてゐは寒そうな素振り一つ見せずに、立ち止まっている。ただ、目線は私ではなく地面を見ているし、手はばつが悪そうに、指先を動かしていた。


「…怒ってる?」


 俯きながらそう呟く彼女に、私はかける言葉を失う。飄々とした対応ならば、喚き散らかしてからてゐに八つ当たりすることも出来たかもしれない。だが、泣き落としみたくこうも出端を挫かれては、いかようにもすることが出来ない。

 私はゆっくりと、てゐの所まで歩み寄った。


「…別に、怒ってないよ。師匠に怒られることなんて、慣れてるしさ」


 遠慮がちに、てゐの頭を撫でる。氷を思わせる、冷え切った髪が揺れ、それにつられてか垂れた兎の耳も僅かに揺れる。


 てゐは、元は地上の兎だ。従って、耳も、尻尾もちゃんとついている。私は月の兎だが、てゐとは基本的に変わらない。耳もあるし、やっぱり尻尾もある。


「でもさ、てゐが薬の瓶を割ったのには、訳があるんでしょ?」


 流石のてゐも師匠に向かっては中々思い切った悪戯はしない。したとしてもその場の空気によりけりで、おまけに大概が些細なものである。

 だからこそ、さっきの悪戯は事が“大きすぎる”のだ。いつものてゐが起こす悪戯の度合いを遙かに超えている。さらに言えば、真面目な顔をしながら悪戯をする奴なんて、いるはずがない。どんな理由からわからないが、てゐの中には何らかの根拠は存在するはずである。

 むしろ、存在しないのならさっきのげんこつをそっくりそのままお返ししたい。一発目はともかく、げんこつ二発目は特に理不尽だったし。



「……あの薬、お師匠様の思ってる薬とは違う物だったの」


「え…」


 あの薬が、違っていた…?

 間違いなく、私は師匠の言っていた物を買ったはずだ。三回程確認したのだから、間違いは無いはず。それに、てゐはさほど薬学の知識を有してはいない。薬が違っていることなんて、わからないはずだ。だがその考えはてゐに見透かされていたのか、てゐはすぐに子細を説明し始める。


「あの薬は、幻想郷にずっと昔からあるの。知る人ぞ知るような、あんまり一般には出回らないような薬だけどね」


 そう言いながらてゐは懐から、瓶に入った無色透明の液体を取り出した。


「それ、さっきの薬…」


「最後の一本だけ、割らずに取っておいたの。これを薬屋の主人に見せたら、偽物ってことがわかるはず」


 私はてゐから薬を受け取ると、光に透かすようにしてよくよく眺めてみる。

 昼間買った薬も、こんな感じで無色透明だった。……正直、瓶に入っているこの状態では、違いがあるのかはわからないと言うのが正しいだろう。となれば、ここで訝しんでいても仕方がない。わからないものはどうやってもわからないのだ。

 とりあえず薬の真否は薬屋で聞くとして、私はてゐの手を取る。そして、里の方へと導いた。

 薬が本物であれ偽物であれ、そもそも薬が手元に無いのが問題なのだ。早く里まで降りなければ、本当に日が暮れて、薬屋が閉まってしまう。


「…ちょっと鈴仙?

まさかとは思うけど、私も買い出しに連れて行くつもりなの?」


「もちろんよ。別にてゐは今からすることないんでしょ。食事当番も違ったはずだし。

だったら買い物に付き合うくらいしてよね。そもそもの原因はてゐが作ったんだから」


 そういうとてゐは渋々ながらも、やる気なく肯定の返事をするのだった。



 迷いの竹林を抜けるまで、後もう少しという所。私たちは他愛もない会話に華を咲かせながら歩いていた。

 そんな時、ふとした質問を思い出し、私はそれをてゐにぶつけてみることにした。


「ねぇ…

てゐはなんで、嘘をつくの?」


 これはそもそも、質問にすらなっていないのかもしれない。彼女はこれまで、数え切れない程の嘘をついてきた。最早、嘘をつくことが当たり前といわれても仕方のないことなのかもしれない。そんな彼女自身にそれの理由を求めても、軽く流されるかあしらわれて終わりだろう。


「嘘…ねぇ」


 てゐは暫く無言のまま考えていたようだった。その様子はどこか悲しげで、儚げに何かを私に訴えかけているようだった。

 そんな沈黙の後、てゐはおもむろに口を開く。


「……鈴仙はさ、“嘘”と“冗談”の違いは知ってる?」


 嘘…。冗談…。

 嘘という言葉は、あまり良い印象では無い。“故意に、人を騙す”、そんな先入観がある。

 それに対し冗談はといえば、明るい印象である。場を和ませ、緊張感を解く為にも用いる。当然、度を超えた冗談は嫌味になるだけだが、使い方によって、良い方にも悪い方にも捕らえることが出来る。


「……あくまでも“私の場合は”だけどね。

冗談っていうのは、意思疎通の為の手段。冗談があるから私が有る、そう置き換えても良い。

嘘は、人に未来を気付かせる為の手段。だから、私はあまりつかない」


 立ち止まり、ぽかんしながら、てゐの言っている言葉の意味を考える。

 私の思考が止まっている訳ではないだろう。だが、ここまで真面目に返されることを予測していなかった為か、全くと言って良い程、頭には入ってこない。思考は出来ていても、理解は出来ていないというべきか。

 そんな私を置いて、てゐは私の数歩ほど前に出た。そして、小さな背中を私に向けたまま振り向くこともせず、ぽつりと、呟いた。


「私は、鈴仙に嘘はつかない。

……それでも鈴仙は、私に嘘をつかれたいと、思うの?」




 誰もいない、太陽も近く沈もうとしている夕刻の竹林。その中を、湿り気のない冬独特の乾いた風が、粉雪を舞わせながら私たちへと吹き荒れていた。


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