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小亀に転生して一月ほどが過ぎた。

体はみるみると大きくなっていき、最初の頃よりも一回り成長した体躯となった。


「やっぱ姿形が変わったとはいえ、人間慣れるもんなんだなぁ……」


一ヶ月もあれば、人というのは逞しく環境に適応していくものである。今や俺は葉っぱを食すのになんの抵抗も抱かないようになったのだ。……虫は無理。



「☼☼☼」



いつもモシャモシャと茂みの草を食べていると、たまに兄亀が俺のところに虫を持ってくることがある。



「あー……いいよ。いらない。」


「☼☼」



そして目の前で惨状を生み出すのだ。ありがた迷惑だよコンチキショー。気持ちは嬉しいけど。


そのグロシーンからできる限り目を逸らしながら、俺よりももっと大きな体を持つ兄亀は、クチャクチャブチブチと虫の肉をついばむのだった。


やっぱ俺も、虫食べた方がいいのかねえ……

前までほとんど大きさが同じだった兄。だが今となっては俺の1.5倍くらいの大きさとなっている。食べているものの違いってこんな顕著に現れるものなのか。


俺も野生で生きる亀の端くれだ。小さければ大きなものに淘汰されていくだろう。少なくとも、どこに行っても命の危ぶまれる状況で生きていくのは考えるだけでも恐ろしいことだ。絶対に耐えられないだろう。



「……」



……いや、やっぱ無理。食えないわ。こんな野生全開で虫にかぶりつくとか出来るわけない。勇気が出ない。

なにが貴重なタンパク源だ。ディスカバリーにも限度がある。


あー……寿司食べたい。



「✲✲✲✲」



そうこうしているうちに、母亀が俺たちを呼ぶ。

なんだろうか?ご飯は今食べているし、他に何か用事でもあるのだろうか。



「☼☼☼☼☼」



兄亀はその呼びかけに応じて母亀の方へと戻っていったので、俺も後に続くことにした。兄亀についていく。



「✲✲✲✲」


「☼☼☼」


「うん……うん?」



残念ながら、俺には亀語が分からない。なので二匹が今、何を言っているのか分からない。


こんな状況で俺はどうしろというのだ。亀に転生させるなら亀語くらいマスターした状態でもいいじゃないか。



「✲✲✲✲」


「☼☼☼☼」


「……え、ちょいちょい!置いてかないで?」



二匹が池のほとりの縄張りから出ていこうとしている。

俺は急いでそれに追いつこうと精一杯走った(遅い)のだった。




……この縄張りから出るなんて、初めてのことだ。


その後、俺は二匹になんとか追従しながら森の中を歩き続ける。向こうもついてくるのを待ってくれていたようで、時々振り返ってジっとこちらを見つめていた。


なんか、俺の元々の親よりも親っぽいかも。元の親は……正直思い出したくもないような奴らだったからなぁ……



「▓▓▓▓▓▓▓▓▓」


「……へ?」



取り留めのないことを考えていると、どこからともなく聴こえてきたのは、本能的に恐怖と嫌悪感を掻き立てられる、不愉快な音。虫の羽音だった。



「▓▓▓▓▓▓▓▓▓」



その虫を俺は、見たことがあった。何度も何度も食卓に並んでいた、トンボの数倍の大きさを持つ怪蟲である。


……なるほど。今、母亀は狩りをしているらしい。そんで、俺たちを連れてきたのは、さしずめ狩りの仕方を教えるためと見た。

まぁ亀として生きていく中で狩り技術は必須。虫は食べられなくても身を守るためにどうすればいいのかは見ておきたい。先達に学ぶことは大切だ。



「――」


「▓▓▓▓」



こちらには気づいていないトンボは忙しなく辺りを飛び回っている。それに対し、こちらは草むらの中でピクリとも動いていない状態だった。


亀は遅い。だから獲物を追いかけたり、襲いかかることはできない。だから狩りには満を持して望むのだろう。


……これは時間がかかりそうだ。


俺のその予想は的中し、トンボを発見して数時間。太陽が東から真南に移動するほどの時間が経った。


何も無い退屈さ、自由に動けない窮屈さ。この2つの影響を受け、俺は既にグロッキー状態であった。

なんで二匹はそんな根気あるんだよ。



「▓▓▓▓▓▓▓▓▓──」



不意にトンボは羽を休めるためか、近くの岩場に足をつけた。よくもまぁあいつも数時間飛び続けられたものだ。発情期だったりするのだろうか。



「✲✲✲✲✲✲✲✲✲✲✲✲✲✲✲」


「んえっ!?」



これまで沈黙を守っていた母亀がいきなり叫んだ。かなりビクッとした。


というか、待つ狩りは?



「▓▓」



当然、危険を察知したトンボは直ぐに飛び立とうと羽を動かそうとする。当たり前だ。急に叫び出されたら俺だって逃げる。

しかし、そうさせなかったのは時すでに遅しであったからだ。



「――え?」



さっきから驚いて出す声しか出せていないが、それくらいの衝撃を受けているのだ。しかし、これは他の驚きとは比べ物にならないくらいの衝撃。信じられない。


ぐしゃり、とトンボの上半身は圧倒的な質量を持つ岩に押しつぶされた。たった一瞬で現れた、大きな大きな岩の塊に。



「ど……どどど……」



今見ていたのは現実?非現実?これは夢か何かなのか?

マジック?亀がそんな凝ったことできるのか?冷静に考えてもこれは夢じゃなくて現実だし。

摩訶不思議でありえない現象の顕現。一体全体……


「……どういうことぉぉぉぉぉぉ!?」

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