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土の匂い

気がつくと、何故か俺は狭い場所に押し込められていた。

目の前は暗くて見えずらく、上手いこと身動きがとりにくい。



「……よっと。」



とにかく胴体をうねらせて外に出ようと本能的に壁を蹴る。若干湿っている感じのするそれは、少しの抵抗であっさりと蹴破れてしまった。


まぁ、それならそれで構わない。出られるわけだし。


俺は身を捩ってその壁のようなものを破る。やけに狭い場所にいるせいか、上手く体が動かせない。

しかし、脆く薄いその壁からパキャリと軽い音とともに光が差し込み、外への道がひらけた。そして──



「……え?」



目の前には、とてつもなく大きな何かがいた。



「……」



思わず声を失って硬直する。


なんだコイツは。デカい。クソデカい。もはや山じゃん。


そうした感想を持ったのだが、山というのは正しくそうであるが、言うなれば山を背負っている、といった具合だ。


比喩的な表現ではあるが、それでもその巨大さに嘘は無かった。


というか……亀?


その山みたいな部分より下。そこに目をやると、頭らしき部分が生えてきている。爬虫類特有の硬そうな表皮に、じっと見つめられていると吸い込まれてしまいそうな深い黒の瞳。


その全てを認知しなければ、それが巨大な亀であると理解できなかっただろう。いったいどこの誰が、こんな大きな亀がいると思うことがあるのだろう。自分の身長よりも、5、6倍も高い亀が。



「……」


「……」



こちらとあちらでバッチリと目があっている。

自身よりも何倍も大きい生物への対峙。それは恐怖以外のなにものでもなかった。頭の中がまっ白になり、身動きの一つも許されなかった。



「――✲✲✲✲」



そんな俺の様子を知ってか知らずか、眼前の巨大亀は頭をこちらに伸ばし、顔をズイっと近づけてくる。


あ、あぁ……俺の命もここまでか……せめて最後にあと一服でもしたかったもんだ……


……なんて潔く諦められるわけあるか!死にたくない死にたくない死にたくない!!動け動け動け動けぇぇっ!



「――」



――巨大亀は俺の上半身をまるまる口の中に咥えてしまった。


……


ぁああああああああぁぁぁ嫌だ嫌だ嫌だごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ――



「……」



次の瞬間、その瞬間だけ浮遊感が全身を駆け抜けた。それと同時に口内からの解放。粘液に包まれる生暖かさ。スローモーションになっている世界へと落ちていく間に、さまざまな感覚が蘇ったかのように産声をあげていく。


「ギゅぶっ……」


地面に足をつけた安心と、体に喰らった衝撃が綯い交ぜになって一気に襲いかかる。ベチャッとした唾液が臭い。すぐそこに、土の匂いがした。


どうやら俺は、吐き出されたらしい。



「……」



えぇ……俺ってそんな不味い?ごめんじゃん。骨と皮くらいしか無いからね。可食部0パーだから……いやなんで俺が謝ってんだよ。お前が謝れ。


とにもかくにも、九死に一生を拾った俺は逃走を決意する。一度死にかけたら冷静になるとかあるけど、今このときなんて結構そんな感じがする。冷静というか……なんだろう。安心?なんか変な気持ちだ。


まぁその冷静さに今は感謝して逃げなければ。向こうも気が変わって骨の髄までしゃぶり尽くされるかもしれないからな。

俺は倒れた体を前へ起こして――


――あれ?


足で立つって、どうやってするんだっけ?

ていうか、今気づいたけど、なんで俺四つん這い?

いやいや、そもそもなんか視界と地面近くね?


……俺は恐る恐る、願うように手に目をやる。

これはきっと、何かの夢に違いない。悪夢か何かに決まっている。だとしなければ、そうでなければ――



「――✲✲✲」


「あ……」



俺の立っているすぐ隣に、とても大きい、海のような池が広がっていた。

その水面には、一匹の小亀が写っている。


――俺の姿が¨亀の姿¨になってしまっていることを、どう説明すればいいというのだ。



「……ええええええええぇぇぇ!?」

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