後悔
もっと遠く、誰にも見つからない場所へ。
まだ、まだ、まだ足りない。
どこまで行っても、どこまで逃げても、俺は────
──瞬間、目の前には鉄の壁が俺の目の前に迫っていた。
無職、童貞、ネトゲ廃人。そしてヤク中。あるところに、もはや落ち切るところまで落ちきった人間がいた。
1日のほぼ全てをゲームで過ごし、実家の部屋に閉じこもり、そしてたまに出かけては麻薬を買って吸う。そんな毎日だった。
麻薬がダメなのは知っている。だが、それでも1度深みに足を滑らせてしまえばもう終わりだ。みるみる身体は痩せこけ、骨は脆く、目は落窪んでいく。
クズはどれだけ足掻いたとしてもクズ。そう必死に自分が変われないことを『仕方ない』と言い聞かせた。
ある日、その男は夜の道を歩いていた。
月の見えない曇った夜空はどんよりと濁っていた。
「──すみません。少しお時間よろしいですか?」
夜の静寂を突然に破る声が聞こえる。男は大きく目を見開き、振り返った。
そこにいたのは紛れもない恐怖の対象。この場で最も会いたくなかった相手。
「警察なんですけれども。お荷物を確認させていただきますね。」
「……」
警察官は、男が持っていた手提げカバンへと手を伸ばす。
見られた?見られていた?自分は捕まるのか?捕まってしまうのか?
刹那、男は警察官の手を跳ね除けてカバンを抱き、来た道を全速力で引き返していった。
「おい!待ちなさい!」
警察官はその予想外であろう事態に、狼狽えもせず男を追いかける。
「……!」
走り、走って、逃げ、逃げ回って。下水の中を這いずり回るドブネズミですら小綺麗に感じれるほど、醜く惨めにただ前へ。遠ざかるための一歩。
「待て!その先は──」
だから警察官の警告も、前から迫るトラックも、逃げている間に道路を横切っていたことも。男には見えていないし気づかない。
「……っ!」
──役立たず
───気持ち悪い
────お前、狂ってるな。
「あ……」
──お腹空いたでしょ?
───辛いときはいつでも聞いてあげる
────あなたは私たちにとっての1番だから
「──」
最後の瞬間、胸の内はたった1つの感情で染まりきっていた。