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森で1

レントに呼び出されたのは、島の北側に広がる森だった。


休日の朝、多喜にあれこれ指示をされながら装備を整え、多少緊張しながら森の入り口へ向かう。

当然のように多喜がついてきた。

同室の三人が一緒に出かけようとしていたところを、おもしろそうだ、とかなりの軽装でガジャルもついてきた。


結局、いつもの四人で歩いていると、森の付近でなぜだか玲が待ち伏せをしていた。

千波の名前の入った、森への立ち入り申請があり、いぶかしく思ってわざわざ確認に来たという。

千波が事情を話すと、軽くうなずいた玲は、当然のような顔で一行に加わった。


その妙なパーティーをめざとく見つけたというフィオナが、突撃してきて再度事情を話す。彼女はきらきらした目で森での火加減をおぼえたいと言い、千波の腕に抱きついた。

フィオナを止めようとしてくれていたらしい花が、あきらめ顔で首を横に振りながら、玲たちに頭を下げて後に続いた。


「……桃太郎?」

「きびだんごがなくてもこれだけ集まるなんて、たいした才能だねー。桃太郎のお供より多いじゃん」

多喜がついてくるのは確定で、ガジャルも来るかもねー、とのんきに言っていた、主催者であるレントは、もはや考えるのを放棄したような表情だ。

「それにしても、なんでレント先輩は、桃太郎知ってるの」

「なんでだろうねー。あ、リエリナ」

森への入り口付近に人影を認め、レントが手を振る。


シンプルな白いシャツに厚手のジーンズ、編み上げのロングブーツを合わせ、ポケットがたくさんついているベストとポーチを身につけた女性が、こちらを向いて軽く目を丸くする。

黒い瞳孔の周囲が緑がかり、外へ向かうにつれて真夏の青空のような明るい青へとグラデーションを描く不思議な色彩の瞳をもつ目は、月光を思わせる銀色のまつげに覆われ、まつげと同じ色合いの豊かな髪は邪魔にならないように編み込み結い上げられている。

彫刻のような美しい容貌の彼女は、一行を見て大笑いする。


「何この大所帯。レントにこんなに友だちがいたなんて、知らなかったわー」

「レント先輩っていうよりは、千波についてきたんですよ」

肩をすくめたのは多喜である。

彼の言葉に「なるほど」と頷くリエリナに、レントがじとりとした目を向ける。


「これだけ居るなら、ディグドリアも狩ってもらおうかしら」

「それ、討伐ランクS級でしょ。千波の練習にならないじゃん」

「でも、この面子でシーラムだけだと、それこそ練習にならないわよ」

「いいの。今日はとにかく実戦経験が目的だから」

「そう。それじゃ、今度レントに一人で狩ってもらうことにするわ。リーダー個体が弱ってきて、調子に乗ってる奴らがいるから、ちょっと増えそうなのよねー」

「実戦経験も多いほうがいいからね。ついでに何匹か減らしておくよ」

ひらりと手のひらを返したレントに、満足そうにうなずくと、リエリナはくるりと一行に背を向ける。


「それじゃ、玲が居るなら私はいらないわね。助かったわー。ラジェッドが産気づいてたから、出産を観察したかったのよ」

「え、俺も狩りよりそっちがいい」

生き物を殺すより、命の誕生の瞬間に立ち会うほうがいい、と千波が手を挙げる。

その千波に、レントがにっこりと微笑む。

「ちなっちゃん、ラジェッドって、巨大なミミズに短い手と足が四本ずつ、つまり八本生えたような見た目で、頭の部分も八つに分かれてて、目と鼻はないけど牙がびっちり並んだ口があって、胎のなかで数十個の卵を孵化させてから生む魔物なんだけど、そっちがいい? 人間の魔力が好物だから、生まれた子たちは、きっとちなっちゃんに群がると思うよ。よかったね」

「あ、俺、遠慮します。せっかく先輩に許可とってもらったし。狩り、経験します」

すごすごと引き下がる千波に、リエリナは「かわいいのよー。無事に子どもが産まれたら紹介してあげるわ」と言いながら、すたすたと歩き去っていく。


「でも、玲先輩がいるからって、どういうこと?」

だれにともなく向けた千波の疑問に答えるのは、当然、保護者の多喜である。

「森の魔物や魔獣は、いい素材になるし、売れば金になる。島の結界外に連れ出せば、大騒ぎだな。だから、森への立ち入りや、森での狩りには、教師か総代の立ち会いが必要なんだ」

「レントと千波の名前で、事前に申請していただろう」

玲の言葉に、千波はようやく合点がいく。

「ああ。あの申請って、そういう意味だったんだ」

「意味もわからずサインしていたのか」

玲が頭の痛そうな顔をする。

「だってレント先輩が、ここに名前を書けば良いだけって言って、文面なんか見せてくれなかったんだもん」

「もん、じゃねぇよ。千波、名前を書く、契約するって行為は、魔法使にとって重要なことだからな。たとえ本名じゃなくても、フルネームじゃなくても、うかつにサインするな」

くどくどと説教をする多喜に、千波は首をすくめてうなずいている。


「ところで、今日はシーラムを狩る、ということで良いのかしら」

フィオナがレントに視線を向ける。

「さきほど、リエリナ先生はディグドリアも、とおっしゃっていたみたいだけれど」

「そうだねー。とりあえず予定どおりシーラムを狩ってから、余力があったらそっちも行こうかー」

「……余力がない、という状況が想像できないですけどね」

周囲を見回しながら、花が言う。


高等部の第二学年で、純粋に戦闘力だけで考えれば最高峰の三人がそろっているのである。さらに、下級生であるフィオナについても、魔法実践の講義で何度かともに演習を行った花は、彼女の実戦経験が豊富であることを察していた。


「俺たちは平気でも、千波は初めての実戦だ」

玲の言葉に、千波に視線が集まる。

「シーラム程度なら、へばることもねぇだろ」

肩をすくめるガジャルに、千波が情けない顔をする。

「ねえ、そのシーラムって、どんなやつなの? 見た目によっては、俺、無理かも」

「見た目かよ」

「だって、二メートル級のゴキブリみたいなのだったら、本気で無理だよ? 泣いて逃げるよ」

「それは私も遠慮したいわね」

花が顔をゆがめる。蹴り技が得意な彼女は、敵に近づかなければ攻撃できない。

「大丈夫だ。シーラムは、樹木に寄生する魔物だ。見た目は樹だから、獣相手より気が楽なはずだ」

多喜の言葉に、千波は胸をなでおろす。


「それで、連携はどうするんだ」

玲がレントに視線を向ける。

「……あのね、俺の予定では、俺と多喜と千波、おまけでガジャ丸、っていう編成で狩ることになってたの。予定狂いまくりなんですけど」

「そうか、すまない。それで、四人の場合はどうするつもりだったんだ」

「すまないって思ってないよね、絶対。玲ってそういうところあるよね」

「そうか。善処する」

悪びれるでもない玲にじっとりとした視線を向けてから、レントは後方にいるフィオナと花に声をかける。

「二人の武器と得意魔法は?」


「私は槍を使いますわ。それから、炎の術式が得意です」

フィオナが言いながら腰につけている棒を手にとる。千波ならリコーダーくらいの大きさと表現するだろう、深紅の棒である。

「それ、魔法実践のとき持ってるやつだよね。何なの?」

千波が訊ねると、にっこりとフィオナが笑う。

「私の相棒よ。今はこの大きさだけれど、戦闘のときには槍になるの」

「へえー、便利。俺もそういう武器ほしい」

自分なら、どんな武器をどんなふうに携帯するか、考えるだけで気分が高揚する。


「私は、武器なしの格闘術です。いちおう今日も戦闘用のブーツだから、木を蹴り破るくらいはできますよ。術式は、あまり得手不得手はないですね」

「花は細かい制御の行き届いた術式を使いますよ。格闘術にも細かい術式織り交ぜて闘うから、何が何だか」

「へえ、対人戦闘に向いてそうだな」

多喜の補足に、ガジャルがおもしろそうな表情をする。手合わせしてみたいとでも思っているのだろう。

「膂力がないので、術式でどうにかごまかしているだけですよ」

肩をすくめてみせるが、その技術が評価されて術式研究会に所属しているのだ。


「うーん、どうするかなー」

フィオナと花の戦闘スタイルを聞いたレントは、腕組みをしながら難しい顔をする。


シーラムは、もともとそれほど強力な魔物ではない。ここにいるメンバーなら、千波以外、一人で簡単に倒せるだろう。

四人の場合は、多喜とガジャルが前衛でシーラムを弱らせ、千波が後衛から魔法でとどめをさす、くらいに考えていた。レント自身は、千波の補助だ。

「細かい連携詰めても、千波が合わせるの難しくなるだけだから、適当に行こうか。シーラム相手なんだし」

「レント先輩、考えるの放棄しましたね」

「んー、だって、もう、めんどい」

多喜の指摘に、レントは本心を隠さず顔をしかめる。


「当初の予定どおり、なるべく弱らせて、とどめはちなっちゃん。てな感じで良いんじゃない? で、念のため全体のバックアップに玲がつく。ガジャ丸は放っといて良いけど、1年生たちちょっと見といて」

役割を振られた玲が軽くうなずく。

「つまり、私は全力で目の前のシーラムを弱らせれば良いのですね」

「フィオナ、弱らせるだけだからね。とどめは千波よ」

花から釘をさされて、フィオナが肩をすくめる。

「わかっているわ」


「ちなっちゃんには、俺が補助でついてるから。ちょっと失敗してもなんとかするから大丈夫」

いつもの調子で言うレントに、千波は緊張しながらうなずいた。

「千波、そう緊張しなくても良い。威力は問題ないし、足止めは俺たちがするから、基本的な術式を慌てずに撃てば良い」

ぽん、と千波の肩に手を置いて、玲が言う。千波が見上げると、紫色の静かな目が見返してくる。無表情ながら、なんとなく彼が微笑んでくれているような気がして、無理矢理笑顔をつくる。

「よろしくお願いします」


なんだかんだで大所帯になりました。

巨大虫系モンスターは、見た目にも闘いたくないですが、

でかい図体でG並みのスピードで動くやつとか普通に強いと思います。

あと、攻撃手段が粘液飛ばす系のやつも多そうで嫌ですね。

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