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教師たちの反応


異例の転入生の、異常な測定結果は、学園中の話題の的となっていた。


魔法の規模はもちろん、炎と水という二種類の魔法を同等の規模で扱うことができることもまた、好奇の対象となった。

地球出身の学生たちはゴシップ的に、けっこうのんきに話題にしているのだが、一部の留学生たちは違った。


「地球の魔法使は、一般的に魔力量が少ないのじゃなかったのか」

「そんな力をもった魔法使、ぜひ我が故郷に招きたいものだ」

「阿呆、のんきなことを言うな。もし地球が中立的立場を破棄したらどうする。これまではそれほどの脅威ではなかったが、あんなものがいるとなれば話は別だ」


食堂の隅や中庭の片隅、空き教室などで、同郷の者同士、まじめな顔をつきあわせる姿も見られた。

多くの魔法使にとって、魔法は兵器と同義である。

規格外の魔力量をもった魔法使は、ただそれだけで脅威なのであった。


千波の測定結果に不安をかきたてられているのは、生徒たちだけではなかった。


画面上に表示されたデータを睨みながら、柳は深く息を吐いた。

表示されている数値は、千波が潜在的に秘めていると思われる魔力の量を表している。


この学園で魔法実践の講義を受け持つようになって八年が過ぎている。

その間に、相当の数の生徒たちを、そのデータも含めて見てきた。


総じて地球の学生は魔力量が少ない。

その理由は、現在研究中ではあるが、科学が発達し、魔法が秘匿されているという、地球の環境が影響しているといわれている。

科学により消費されるエネルギーが膨大であるため、次元のエネルギー総量のバランスを保とうとすれば、魔力となるエネルギーは少なくなる、という理論である。

もっと単純に、どのような生物でも、必要な能力は発達するが、不必要な能力は退化するものだと言う者もいる。

そのほか、いわゆる心霊や妖怪、精霊や神々が高い魔力を有し、人間は地球に存在する種族のなかで、魔力的に劣等種なのだという説を掲げる研究者もいる。


いずれにせよ、一般的に、地球の魔法使は他次元の魔法使に、魔力量の面では劣るのだ。

そんななかで、柳が見てきたどの学生の魔力量も簡単に凌駕するほどの千波の測定結果は、にわかに信じがたいものであった。


「それか、例の転入生のデータは」

柳の背後からのぞきこんできたのは、松葉であった。

演習の見学に来た千波と、一応は顔見知りである。

「……松葉先生は、こんな数値見たことありますか」

先輩の教師に柳は問う。

「地球人では、ないな」

「留学生なら、あるんですか」

「一人だけ。だが、そいつは一属性特化型だった。これは……えげつないな」

なんとも言えない表情を浮かべながら、松葉は以前に見た千波の華奢な身体つきと、魔法や戦闘に不慣れな様子を思い出す。


魔法は、制御を誤れば自身の肉体をも簡単に滅ぼす。

そのために、どんな状況でも確実に制御できる精神の力と、魔法の負荷に耐えられる強い肉体が必要である。そのどちらも未発達な彼の内側に、これだけの力が秘められているとなると、ちょっとしたことでとりかえしのつかないことになりかねない。


それよりも何よりも、今まで無事でいられたことが信じられない。

学園では術式を教えるが、魔法の発動に術式は必須のものではない。滅多にあることではないが、これだけの魔力量を有しているなら、何かの拍子に暴発してもおかしくない。


「これ、測定の間違いなんじゃねぇのか」

ひとまず思いついた可能性を挙げてみる。

「それは、私も考えました。でも、この直前に同じ機器を使って別の留学生の測定をしているんですよ」

「その結果は、もちろん適正だったんだな」

「ええ。彼女も優秀でしたが、常識の範囲内です」

「術式にも間違いはない」

「それは、すぐに確認しました。それに、測定の助手は玲でした。彼が単純なミスをするとは思えない」


柳の答えに松葉は頷く。

こと魔法の理論に関して、玲ほど優秀な学生を松葉は知らない。

術式学の権威である曽我部が考案したものの、本人すら制御ができない重力を操る魔法を、いとも簡単に使う。魔法への理解の深さと、魔力操作の繊細さが、それを可能にしているのだ。

そのうえ、突発的な状況にも冷静に対応する判断力は、どれほどの実戦経験を積んできたのかと空恐ろしくなるほどだった。


松葉は、再び画面上のデータを睨みつけ、考え込む。

そんな先輩に、柳は思いついた可能性をぶつけてみる。

「たとえば、イメージが先行して、術式がうまく機能しなかったということはありませんか。彼は、魔法を初めて使ったわけですし」

「その可能性は、ないわけではない」

そう言った松葉は、だが、と表情を険しくする。

「その場合、あの完成された術式に抗いながら、大規模な魔術を精神力だけで制御したということになる。それも、炎と水の両方だ」

「あ……」

その言葉に、柳は無意味な声を漏らしたまま固まってしまう。


その脳裏に、測定のときの様子がよみがえる。

炎の龍は、千波に攻撃をしかけようとしていた。彼自身がそうしようとしたとは考えにくい。

そして、その状況のなか、千波は水の狼を呼びだした。

実戦経験が皆無である千波に、あの場面であの炎を相克するような規模の魔法を制御できるとも思えない。


「まあ、どちらにせよ、規格外の化け物だな。わかっていると思うが、指導には必ず補佐をつけろ。こいつ、すぐに死ぬぞ」


直接的な松葉の言葉に、柳は顔を青くしてうなずいた。


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