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初演習4

「それじゃ、先にフィオナからいこう。ホールの真ん中あたりに立って」


 元気よく頷いたフィオナは、軽やかな足取りで、ホールの中央へ進む。中央付近へ来ると、くるりと振り返る。

「このあたりでよろしいですか?」

「オーケー。ああ、始める前に、彼を紹介しておかないと」

 言いながら、柳が中二階の一角を指し示す。

 そこには、遠目にも美しい黒髪が目を引く男子生徒が顔をのぞかせていた。


「玲!」

 柳が彼の名を呼ぶと、彼は例の大きくはないのによくとおる声で応える。

「準備ならできています」

「それはわかっている。君を彼らに紹介しておこうと思って」

「お気づかいありがとうございます。しかし、彼らとは面識がありますので」

 さらりとそれだけ言うと、玲はおそらく測定機だろう機械に向き直ってしまった。

「まったく。優秀なんだが、無愛想で困るよ」

 生徒に軽くあしらわれた柳は、盛大に顔をしかめてみせる。


「玲先輩が手伝ってくれるんですか?」

 千波が訊ねると、柳は意外そうな顔をする。

「ああ、本当に面識があるんだな」

「一度、顔を合わせたことがある程度ですけど」

「そうか。彼には、測定を手伝ってもらう。いつもは教員がやるんだが、こんなタイミングで測定をすることがないから、人がつかまらなくてな。立候補してくれた」

 柳の言葉に、千波は頷く。あのガジャルを指揮下におけるのだ。優秀であることには間違いない。

 同時に、玲の放った魔法を思い出して、背筋が冷える。術式学もまだ初級の千波だが、その程度の知識でも、あの魔法がどれだけ洗練されたものなのか、いやでもわかる。


「それじゃあ、気をとりなおして、始めよう」

 柳は一つ手を打つと、ホール中央に立つフィオナに声をかける。

 豪奢なホールの中央で、シャンデリアのきらきらとした光の下に立つ彼女は、お姫様のようににこりとほほ笑む。

「いつでも大丈夫ですわ」

「頼もしいね」

 柳は、フィオナに先程渡した機械の、赤いボタンを押すように指示する。

「これは……火の式?」

 液晶画面に表示された文字列を見たフィオナの独り言のような質問に、柳が応える。

「そうだ。炎を発生させる術式。

出力は魔力総量の二パーセントに抑えてあるけれど、全力で炎を出すつもりで。それで実際に発生した術の大きさから、魔力の総量を逆算する。タイミングは君に任せるよ」


 柳の説明に、頷くと、少女は目を閉じる。集中力が高まっていくのが傍から見てもわかった。彼女の周りだけ、空気が変わる。耳が痛くなるほどの静けさが、ホールを包んだ。


 どれくらいの時間が経ったか。実際には、十秒ほどのものだろう。

 千波が唾を飲み下すのとほぼ同時、大きく息を吐き出したフィオナが目を開いた。


「カルディハイス」


 凛と、透明でいて力強い声で、彼女が故郷で教わった呪文を発する。

 彼女の手元の機械に表示されていた術式が力を得て、千波はそこに赤い光を見た。

 同時に、彼女の足元から二、三メートルほど離れた地面から、大きな火柱が生じる。

 ホールの中二階に届くほどの高さまで立ち昇った炎は、上方で集まり大きな火の玉になる。と、意志をもっているかのように蠢くそれは、見る間に形を変え、大きな翼をもつ鳥になった。


 片方の羽でも千波が両手を広げたくらいの大きさである。

 鳥は、優雅に羽ばたいて、シャンデリアを赤く輝かせながらいったん天井近くへ昇ると、急降下してフィオナの足元へと着地した。

 金色の髪をもつ少女は、自分の前に降り立った鳥へ、愛しむように笑む。

 炎の鳥は、恭しく彼女へ一礼すると、一際まぶしく輝き、消えた。ふわっと、風だけが残った。


 一連の出来事を、半ば呆然としながら見守っていた千波は、隣に立つ柳が拍手する音に我に返った。


「すばらしい。威力はもちろん、とても美しい魔法だ」

 褒められたフィオナは、はにかむように笑う。その表情に、千波は、ようやく彼女が自分より年下の女の子であることを思い出した。


「炎の術は得意ですから。それにしても、どうして鳥になったのかしら」

「そういう術式だからだよ。魔力の質に応じて、具現した炎や水は姿を変える」

 高貴な鳥の姿を思い出し、千波は内心で頷いた。たしかに、フィオナの自由でいて気品のある性質によく似合う。

「そうなのですね。良かったわ、素敵な形になってくれて」

「この調子で、次は緑のボタンに行こう。風の術式だ」


 測定は、風に続いて水、雷、土と、滞りなく進んだ。

 以前に術式学の講義で聴いたように、同じ量の魔力を使っても、発動する術との相性で現象の規模は変わるらしく、他の要素では炎ほどの規模の鳥は現れなかった。

 それでも、風の魔法では綺麗な蝶が無数に現れ、雷の魔法ではフィオナの故郷に生息しているという、羽根をもった猫のような獣が姿を現した。

 どうやら、彼女は空飛ぶものと相性が良いらしい。

 一方、彼女が苦手だという水と土では、魔法は発動したものの、ごく小規模なもので、何かの形を成すことはなかった。


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