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初演習1


 千波が初めて魔法を使う授業に出ることが許されたのは、島が早々に梅雨明けした七月初めのことだった。


 多喜や、物理などの座学の授業で一緒になる友人たちからは、「やっと許可が出たんだな」「よかったじゃないか」と祝福されたが、本人は素直に喜べなかった。魔法を使うということに対する興味や憧れはあるものの、彼の脳裏には、どうしても地下のゲートの前で繰り広げられた光景がよぎる。


 あのときの恐怖の正体を、千波はいまだ正確にはつかめていなかった。


 恐怖を感じたことは事実だ。でも、それが、何に対するものなのかがわからない。

 異世界からの侵入者が存在することか、彼らが敵意や害意を抱いていることか、それを返り討ちにする先輩たちの手腕か、その立場にいずれ自分が立つことか。

 考えればきりがなかった。それでも、考えずにはいられないのであった。


 あの一件以来、千波は魔法や戦闘に関する授業に、それまで以上に真剣に取り組んだ。その切迫感は、近くで見ていた多喜が、少し手を抜くように諭すほどだった。

 同じ光景を見ていた多喜には、その気持ちが理解できたが、元がそれほど丈夫な性質ではない千波である。無理を重ねるのは好ましくない。


 魔法使にとって体調管理は、生死に直結する、最も重要な能力といえる。

 魔法は曖昧で不安定なものだ。魔法を使う人間の体調や精神力が如実に反映される。

 科学の発達した地球では、術式の系統化や機械による補助によって、他の次元では考えられないくらいに、魔法を安定して使える技術とすることに半ば成功している。

 それでも、魔法を制御するのが人間で、相手にするのが自然である限り、そこに絶対はない。そもそも、科学が自然のすべてを解明できるはずもない。

 だから、学園ではまず、できるだけ魔法を使わずに戦う方法を教えるのである。


 ともあれ、魔法を使う許可が下りたのである。

 通常、学園に入学した、地球の生徒が魔法の使用を許可されるのは、一年目の冬休み明けである。異例の速さなのは、彼が異例の途中入学だからではあるが、その努力が認められたからでもあった。


 いつもの体操着よりも、本格的な装具のついた衣装を着けた多喜や、他の友人たちと並んで、千波は校舎の西側に位置する屋内演習場へ向かっていた。

 千波自身も、初めて身に着ける防具やホルスターやポーチのついた服を着ている。腰に着けたホルスターには、今は何も入っていない。千波が専攻している杖術の得物は、担当教官によれば発注済みらしいが、現在制作中だという。


 さすがに多喜は様になっているが、千波自身はどうにも落ち着かない。

 アニメのコスプレでもしているような気分である。


 その上、衣装はかなり暑かった。

 七月の島の気温は、さんさんと降り注ぐ陽光に容赦なく上がり、ちらほら海で泳ぐ生徒の姿も見かけるようになってきていた。しかし、千波の衣装は、防御を優先しているのか、しっかりとした長袖である。

 周囲を見渡せば、肩から腕を完全に露出している者や、ショートパンツの者、果ては、防御を放棄しているとしか思えない布面積の者もいる。拳を武器とする多喜は、手から肘にかけては籠手でおおい、二の腕から肩は形の良い筋肉を露出させていた。


「この衣装って、誰がデザインしてるの。暑いんだけど、俺」

「補整部に持って行けばカスタマイズしてくれる」

「そういうことは早く教えてよ……」

「悪い。だが、お前はそれくらいしっかり防御できる格好のほうが良いと思うぞ」

「魔法実践ってことは、そのうち演習で異世界に行くことになる授業だよね」

 いささか不安げな千波の肩を、多喜は軽く叩いてやる。

「まあ、今日は最初だから、魔力の量と質の測定くらいで、難しいことはしないだろうし、訓練に参加することもないだろう」


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