厳重に警備された一室で3
魔法によって、不可視の障壁が施されているという建物を出ると、ほとんど同時に車が目の前に停まり扉が開く。
毎度のことだが、ここまでタイミングがぴったりであると、どういう理屈なのかと尋ねたくなる。
とはいえ、土岐に不都合はないので余計なことは訊かないことにしていた。
魔法のことは、できるだけ知らないほうが良い。
土岐が名前のない学園の長となったのは、もう十年も前のことだった。
彼自身には、魔法の資質はなかったが、彼の姉は魔女だった。
中学進学と同時に家を離れた彼女のことを、土岐はすっかり忘れていた。学園で再会するまでは。
彼女に懇願されるまま、高齢となっていた前任者の跡を継いだ。前任者は、記憶を消されて地球の生活に戻ることを望まず、地球と友好的な関係を結んでいる次元で余生を過ごしていると聞く。
年若い学長となった土岐に、学園内で求められることはほとんどなかった。魔法について理解しようと努めたこともあったが、使えもしない知識、それも、元の生活に戻るとなれば、消される記憶だ。
自分がただの飾りでしかないことを嘆くくらいには、当時の土岐は若かった。それでもこの座を降りなかったのは、なぜだったか。
今となっては、どうでもいいことだったのかもしれない。
土岐が車に乗り込むと、静かに扉が閉じ、なめらかに車は走り出す。
運転席に座るのは、土岐の補佐をつとめる東である。まじめくさった男で、いつでも針金でも入っているかのようにピンと背筋を伸ばしている。
彼は学園の卒業生だった。魔法の成績自体には目立ったところはなかったが、実務能力の高さを買って、数年前に補佐に抜擢した。
「彼らの処遇は」
唐突に投げかけられた質問にも、東はそつなく答える。
「地下に拘束しています。尋問は行っていますが、まだ隠し事があるようですね」
「簡単に吐かせる魔法はないのか」
「簡単に、吐かせる魔法はありません。相手も自分も廃人同然となるリスクを負えば、可能な術式もあると、曽我部先生に聞いたことはあります。それには、本名も必要ですが」
「割に合わんな。それに、名前を吐かせる手間がかかるなら、隠し事を吐かせるのと変わらない」
軽く息を吐いて、シートに身を沈める。
革張りのシートは、適度なやわらかさで土岐の上体を受け止めてくれた。
彼らには、立ち入るつもりはないと言ったものの、侵入者の側が、地球に立ち入るつもりがあるなら話は別である。
当然、隠し事は洗いざらい話してもらったのちに、彼らのような人間を喜んで受け入れてくれる次元に引き渡す。
場合によっては、彼らの故郷の処遇を、恩を売っておいた次元に任せる必要もあるだろう。
頭の中で算段をつけながら、見るともなしに窓の外を眺める。
土岐には魔法が使えない。
使えたとしても、目の前の問題を解決するための術式は、存在しないのだろう。
「不便なものだな」
独りごちた土岐の言葉に、東はルームミラー越しに、一瞥を投げただけだった。
若い子が書きたい。。。
ちなみに、学園の卒業生は、
学園で働くか、他次元に移住するかする場合が多いそうです。




