ゲート前で8
扉の周囲には、学生たちが半円状に陣を展開していた。扉に最も近い位置には、ガジャルの姿も見える。
一際けたたましく警告音が響くと同時、扉がゆっくりと開き始めた。それとほぼ同時に、複数の術式が展開、発動する。
前衛の生徒たちは、それぞれに武器を構えたまま、微動だにしない。
二列目に控えた生徒らは、すでに準備していた術式を展開し、防壁をつくる。
炎と氷、風、雷。それらが魔力で構成された不可視の壁にぶつかる。その衝撃は、離れたところに立っている千波たちのところにも襲ってきた。
「侵入者による攻撃を確認。行け」
松葉の号令に、生徒たちが扉から現れた五つの影に殺到した。
「ずいぶんな歓迎だなあ。地球ってところは、野蛮だねえ」
ガジャルが警棒を振りかざし飛びかかった相手は、その初撃を寸でのところでかわすと、ことさらにゆっくりとした口調で言って笑った。鮮やかな青色の髪を長く伸ばし、独特の形に結い上げた男だった。
初撃を避けられたガジャルも、すでに体勢を立て直し、にやりと笑う。
「地球の日本ってところは、礼儀を重んじるところなんだ。ノックの力加減も知らねぇ奴らに、丁重なもてなしをしてやる義理はねぇな」
「でも、こっちにはこっちの流儀ってものがあるんだよね」
「郷に入っては郷に従え。俺も従ってんだ。お前らも従え」
ガジャルが警棒を持ち直し踏み込む。
青髪の男は、日本人の平均よりははるかに大柄だったが、それでもガジャルのほうが体格でまさっている。
唸りを上げて襲いかかる警棒を、再びかわすも、今度は間をおかず、二撃、三撃が襲いくる。
男はそれを目で追いながら躱してみせる。
その様子に、攻撃を繰り出すガジャルは、若干肩すかしを喰ったような気分になっていた。とくにセキュリティが厳重なことで知られる地球への襲撃に参加したくらいだ。それなりに、腕におぼえのある者なのだろう。しかし、右手にある短めの剣は、お飾り程度にも役に立っていない。
それでも侵入者はにやにやとした表情を変えなかった。魔法を使えばなんとかなるとでも思っているのだろう。
「さすが、一筋縄じゃ行かなさそうだね?」
「一筋縄も何も、お前らが勝つ手段はねぇんだよ」
ガジャルが放った蹴りを避けて、一度距離をとった侵入者は、案の定、術式を展開した。
「リエラ」
彼らが信じる水の精霊の名をつぶやくと、その手元に大量の水が集まる。
地球で教育を受けた魔法使であれば、精霊の力による現象ではなく、大気中の水蒸気や水素と酸素が術式によって集まり、水のかたまりに変わったのだと理解したであろう。
その水が形を変え、幾本もの矢となってガジャルへ向け放たれた。
侵入者の魔法は精緻で、スピードも威力も十分なものであった。それらの矢は、ガジャルの肉体をえぐり、紅く染まるものと思われた。
しかし、矢はガジャルに届く寸前に消え、代わりに爽やかな風が吹き抜けた。
驚きに目を見開いた侵入者には、ガジャルが警棒に刻まれた術式を展開したことしか理解できなかった。そして、その術式に雷を起こす命令が組み込まれていることしか読み取ることができなかった。
「知らなかったか? そういや、俺もこっちに来るまで知らなかったな」
ガジャルが不敵に笑う。
「水ってのは、電気で分解できるらしいぜ? 日本じゃ、ガキでも知ってることだ」
言い終わるとほぼ同時、ガジャルは再び雷の術式を展開し、相手に放つ。
男は咄嗟に反応しきれず、電撃をまともに喰らった。全身を襲う痺れに身体が硬直し、そのまま地面に倒れ伏す。その身体の上にどっかりとガジャルが腰を下ろす。
「……き、さま」
「ああ、意識はあるんだな。良かった、加減がうまくいって」
にらみつけてくる侵入者の目を見返しながら、笑ってみせる。
屈辱的な仕打ちに、しかし、侵入者はなす術がなかった。余裕そうに見えて、この狼のような耳をもつ大男は、警棒を手にしたまま油断なく、尻の下に敷いている相手の様子をうかがっている。
戦闘って、むずかしい。
こんな方法で電気分解ができるかどうか
あやしいですが、魔法なので。
そういう術式なのです。きっと。




