食堂にて
「信じられないも何も。ちなっちゃん、もしかして俺らの出身知らない?」
レントの問いかけにうなずき、首を傾ける。
「ガジャ先輩とレント先輩は、地球以外出身?」
「そういうこと。あ、どこかは言わないよ。詮索は御法度」
「御法度って。先輩、絶対アニメでおぼえたでしょ。あれ、言葉は? それも魔法?」
「ああ。便利だよな」
言いながら、ガジャルが耳につけているカフスを示す。おそらくそこに術式が刻まれているのだろう。
「そっかー。本当なのかー」
つぶやきながら、千波はあらためて隣のレントと正面のガジャルを見やる。
レントは、とんでもなく整った容姿以外は、いたって普通の人間に見える。エルフ説を自分の胸のうちで唱えてはいたが、耳がとがっていないので、やはり半信半疑だったのだ。
一方、ガジャルは、鋭い犬歯と狼のような耳、二メートル近い巨躯をもつ。短い髪は、濃い紺色で、瞳も同じ色をしている。たまに風呂上がりの彼が裸でリビングをうろついているときに確認したが、尻尾ははえていなかった。言われてみれば千波が知る限りの地球に住む人類の容姿とは少し異なるが、特段そのことについて、ガジャルに訊いたことはなかった。ガジャルの他にも、個性的な見た目の留学生はちらほらいるうえ、学園生活の注意事項にも書かれていたので、あまり深く考えていなかったのである。
髪の色を変える魔法については、あまりにレントの髪色や髪型が頻繁に変わるので、「はげるよ?」と忠告してみたところ、非常に不服そうな彼から教えてもらっていた。
同様に、ガジャルの耳も、外見を変える魔法の一種だと思っていたのだ。なぜ犬耳、とは怖くて訊けなかっただけである。
ガジャルのふわふわとしていそうな、髪と同じ濃い紺色の毛に覆われた耳を見つめながら、ふと思ったことを訊いてみる。
「ガジャ先輩って、もしかして狼に変身できたりするの?」
「……どういう思考回路だ」
千波の隣で吹き出すレントを睨みながら、ガジャルが呆れたように言う。
「気にするだけ無駄ですよ。それで、変身できるんですか? 俺も興味ある」
多喜からも見上げられて、ガジャルは軽く息を吐く。
「できねぇよ。そもそも俺の故郷に狼はいない」
「そうなの? その耳、絶対狼なのに」
大きな目を見開いて、千波がガジャルを見上げる。あまりに邪気のない目に気圧されるように、ガジャルは軽く目をそらした。
「ヴォロバルフだ」
「ロバ?」
「ヴォロバルフ。俺らはそう呼んでいる。見た目は狼に似ていなくもないが、魔力ももっているし、人語も解する。俺は、他にもいろいろ混ざっているが、人間とヴォロバルフの特徴が最も強く容姿に反映されているだけだ」
「へえー。じゃあ、ガジャ先輩の故郷では、いろんな耳の人がいろんな感じで生活してるわけだ」
行ってみたい、と笑う千波に、そのような反応に慣れていないガジャルは、少し身じろいだ。
「俺んとこは興味ないの?」
千波の隣から、レントが会話に割って入る。
「え、聞いちゃだめってさっき言ってたじゃん」
「固有名詞出さなきゃ大丈夫」
「そういうもの? レント先輩のとこも、地球と違うの?」
「科学が地球ほど発達してないから。こっちのロールプレイングゲームとかの世界に近いかな。剣と魔法の国ってやつ。俺の出身地の周辺は、すごく広い森が近くにあって、移動手段もほとんどこっちで言う馬みたいな動物だったな」
「やっぱエルフだった」
感動したように言ってから、千波は、はた、と多喜を見つめる。
「なんだ」
「多喜くんは……」
「俺は、日本出身だ」
即座に言われて、そっか、と千波は肩をすくめる。とはいえ、入学以前の多喜のことが気になり、質問を重ねようとする。しかし、肉をほおばる多喜の表情は、それ以上の質問を拒絶していた。
「それにしても」 肉を飲み込んだ多喜は、千波に視線を投げる。「もう納得したのかよ」
地球以外に世界があり、そこに暮らす人間が机を並べて同じ教室で学ぶ。さらに、自分がその外の世界へ行く。
そんな事実を、入学したての頃の同級生たちは、なかなか受け入れようとしなかった。彼らが納得したように見えたのは、初めて実際に異世界へ行ったときのことだ。
知識として知ることと、納得して受け入れることは、別のことなのである。
「だって、魔法学校なんてものに通ってる時点で、もう、いろいろと諦めがつくよ。常識なんて役に立たないって。考えるだけ無駄」
「考える頭がねぇだけだろ」
揶揄するガジャルに言い返す千波は、いかにも子どもっぽいのだが、その器は意外と大きいのかもしれない、と多喜は友人への評価を改めた。
そんなわけで
魔法&エセ異世界ものとなる予定です。
とりあえず当面は異世界には行かないはず。
ちなみに、ガジャルの故郷は茶色っぽいイメージです。




