食堂にて
二人が言い合いながら、給仕を待つ列に並んでいるころ、ガジャルは周囲がうるさくなく、空いている四人掛けのテーブルを見つけ、寝ぼけている千波を座らせた。
「おら、起きろチビ」
自身は千波の正面に座り、テーブル越しに軽くこづくと、千波はうなりながら目をこする。起きる意志はあるらしいが、こぼれそうに大きな目が、半分くらいしか開いていない。
「うあー、ガジャ先輩?」
しばらくしてようやく意識が戻ったらしい千波は、眼前に座る大男を認めて首を傾ける。
「そうだよ。文句あるか」
「んー。顔怖い」
「殺されたいのか、お前は」
「日本では、殺人罪は、重罪です」
物騒な会話をしながら、大きなあくびをしている。
ガジャルは体躯も大きく、強面で、そのうえ口も愛想も悪い。しかし千波は、不思議と彼を怖いと思ったことはなかった。実の兄のほうが、よっぽど恐ろしい。
「多喜くんは?」
千波が問うと、ガジャルは少し口元を歪めながら、応える。
「飯取りに行ってるよ」
「っていうか、俺もいるんだけど?」
不服そうな声は、当然レントである。千波の前に食事の乗ったトレイを置いてやりながら、その隣に座る。千波は、まだ覚醒しきっていないぼうっとした目で、隣に座った派手な人物を数秒じっくりと見つめてから、頷いた。
「あー、レント先輩か」
「ひどいな、ちなっちゃんてば」
「先輩がころころ髪色変えるからでしょ」
レントに続いて多喜も合流し、席が埋まる。多喜とガジャルという、体格の良い二人が並んで座るかっこうになったため、いささか窮屈そうである。
「てか、ガジャ丸、さっきから何笑いこらえてんの。すっげぇムカつくんだけど、その顔」
「千波は素直だと思っただけだ」
「ガジャ先輩も素直だよね」
「そいつのは単細胞っていうの」
「もう、食事時ぐらい静かにできないんですか。ほら、千波、いただきます」
「いただきまーす」
ともあれ食事が始まると、さすがにしばらくは静かになる。この日のメニューは豚の生姜焼き定食で、留学生であるレントやガジャルも、この日本の味をけっこう気に入っている。
「あ、そういえば、俺、来週から演習で出るから」
半分ほどを食べ進め、千波が早々に食べ疲れてきていたところで、レントが口を開く。
「ああ、そういえば、そんな時期ですね」
「ガジャ丸も行くんでしょ?」
「ああ」
「演習って、学園の外に行くんだよね?」
味噌汁をかきまぜながら尋ねる千波に、多喜がうなずく。
「学園っていうか、地球の外だな」
軽く言う多喜に、千波はじっとりとした視線を向ける。
「それ、俺いまだに信じられないんだよね。異世界に行くんでしょ」
入学したときに渡された資料に、簡単に書かれていた説明を思い出す。
〈学園の地下深くには、ゲートと呼ばれる扉があります。ここからは、地球とは異なる世界へ行くことができるようになっています。魔法があたりまえに使われている世界もあります。高等部で履修する魔法実践の演習では、実際にこれらの世界に渡り、魔法を使ったさまざまな訓練を行います。〉
〈学園では、地球上のさまざまな国からの留学生が学んでいます。さらに、異世界で魔法を学んだ魔法使が、さらなる研鑽のために地球に学びに訪れます。学園内には、多種多様な外見の人が一緒に暮らしています。〉
前者は、たしか魔法実践の授業に関する記述で、後者は学園生活の注意事項で見かけた記述だ。あまりにあたりまえのように書かれていたので、最初、千波は何のことか理解できなかったものだ。




