男、出稼ぎ冒険者と語らう……
「またか……」
出稼ぎ冒険者が、Webニュースでの出来事を見ては寂しげに呟く……
「死刑になりたくって…… 犯罪を起こしたか…… 1つ間違えたら…… 俺もその一人だったかもなぁ……」
D国に来る前は、衣食住が満足では無い貧困で天涯孤独だった彼は……
昨今の犯罪者達の気持ちは…… 痛いほど知っていた。
「世界的に疫病が広がったのに…… 貧困層の救済は無く。相も変わらずに全ては自己責任…… 大不況や大震災に他国の大企業が潰れるとまた大不況…… そしての世界的な疫病の感染爆発…… そんなの一個人でどうにかできる訳が無いのになぁ……」
自分でどうにかできるならば…… 犯罪になって走らないはずの人々が死に場所を求めて犯罪者になる状況に…… 自分も紙一重だった思うと、いたたまれなくなった。
「俺は…… 偶然、運が良かった…… だけだ」
目を瞑ると…… 有名なヒーローの悪役になりきり犯罪を起こす自分の姿が浮かんでは消える……
D国に来なければ…… あの時、募集広告を見て…… 応募していなければ……
「俺も…… 犯罪者だったかも知れない……」
夢や希望が人それぞれの様に…… 絶望や挫折も人によって違う……
ならば、最低限度の生き方が出来る様に……
「国が支援してくれたならば…… 彼等も犯罪者には、ならない未来があったのかもなぁ……」
「そうかもな」
「あっ、王様」
「やあ…… 調子は、どうだい?」
「怪我した右腕の調子も良いので、来週の休み明けには冒険者に戻りますよ」
彼は、ダンジョンアタック中の怪我で休業中の出稼ぎ冒険者だった。
「無理せずにゆっくりな」
「はい、もちろんですよ。しかし…… 本当に、この2日間休んでる間の給与を貰って良いんですか?」
「良いんだよ。うちには、無駄に税金を食う政治家や官僚がいないから…… たまに労働者と国民に返さないと国としての意味がない。国って言うのは、人々の集まる土地だから…… 土地や親は選べないし、このご時世…… ただ生きる事もできない人は切り捨てられるみたいだからなぁ…… せめて、うちみたいな国ぐらいは…… 楽しんで生きれる国でも良いだろう?」
「そうですね……」
「しかし…… あの国は、どうしたいのかねぇ? 疫病が蔓延する中での世界的祭典の強行と言う前例を作り、少子化を嘆きながらも結婚出産子育て可能のな世代の貧困層を救済しない。将来性が無いのに、結婚出産子育てなんかできる訳が無いのになぁ……」
「テレビ特番の大家族なんて、例外の例外ですもんねぇ。愛さえあればと言っても…… 子育てなどの将来的な出費を考えると、老後に2000万以上必要だって言われ…… 結婚に夢を見れないのが現実ですからね」
「今が苦しいのに、子供なんか作れる訳が無いよなぁ……」
出稼ぎ冒険者と話ながら……
かつての故郷は、大丈夫か?と、思う男だった。




