カフェーと本
ここはどこだ。家?ちがう。行き慣れた図書館?それもちがう。知らない喫茶店?それだ。僕は今、知らない街の知らない喫茶店にいる。向こうの席でじいさんが習字をやってるような。おじいさん、それ墨じゃなくてコーヒーですよ。
でも、別にそういうぶらり旅みたいなことが趣味で今こうしているわけじゃあない。それじゃあ、なんでこんなところに?学校に行く電車を乗り過ごしたのだ。いや、最近買ったラノベが面白くてつい読み耽っていたらこんなことになってしまったというくだらない失敗なのだが。やっぱり現世で冴えない人間が転生先で無双する話は自己陶酔に浸れて良い。僕も学校ではそう目立つような、所謂陽キャではないから、そんな話には素直に憧憬の念を抱くのである。
実は、今日電車を乗り過ごしたのも、単純なトラブルそれのみではない。たまには学校をサボってしまうのもアリかなと思ったのだ。成績が中の下の僕が言うのもなんだが、授業は退屈で仕方がない。それに、学校に行かずともべつに僕の不在を気にかける物好きはいないし、いたとて陽キャ共が「あいつ今日いなくね?笑」などと続かない話の種にするのが関の山だろう。
だから、今日は知らない喫茶店で優雅にコーヒーでも飲もうと思ったのだ。なかなかどうして乙な考えじゃないか。店員は妙な時間帯に制服を着て店に入った僕を見て、妙な顔を僕に向けたのだが。その顔は、コーヒーが運ばれてきた折にブックカバーもせず例の本を興奮しつつ黙々と読んでいた僕に改めて向けられることとなった。