REAL:1話
「はぁぁ...。」
僕は、自分で書いた小説『殺し屋の血脈』を読み返し、思わず落胆してため息をついた。
ストーリーを思いついたとき、自分は天才ではなかろうかと思った。
しかし、それをいざ文に起こしてみるとなんて稚拙なものだろうか。
少し主人公に自分の理想像を投影しすぎたかな。
まぁ、授業中に内職して書いた文章なんてこんなもんか、と自身を慰めつつ。
僕はさも問題に悩んでいるかのように険しい顔をして、黒板に目を向ける。
たまには顔を上げないと、先生に怪しまれるからね。
もちろん僕の意識は、黒板に描かれた数式なんかには向いていない。
(意識したところで理解できないとか言うな)
小説の構想を練っている。でも。
「全然良いの思いつかないんだよなぁ~…」
思わず小声で漏らした愚痴が聞こえたのか、隣の席の上田さんがチラッとこちらを一瞥する。
慌てて、咳き込んだ時に痰が喉に絡まって変な声が出たんですよ、という顔をしてごまかす。
我ながら、模範的な授業態度である。
どうでもいい話が続いたが、今までの僕を見ていただければ何となく想像はできるだろう。
僕は小説を書きたい一介の高校生である。
名を朝霧 恭太郎という。
先月ここ貝南高校に入学したばかりだ。
自分で言うのもなんだが、小説が好きということを除けば特筆すべきことは何もない。
そんな高校1年生である。強いて言えば、長渕剛をよく聴くぐらいだろうか。1番好きな曲は、『君は雨の日に』である。
ありゃあ、いい曲です。恋愛なんかしたことないから、もちろんきちんとした失恋もしたことはないんだけれど、あの曲はなんか、沁みます、はい。
話を戻そう。まぁ、戻るほどちゃんとした話はしてないんだけどね。
部活は、まだなにも入っていない。文芸部に入りたいんだけど、入部したときに先輩に
「今まで執筆の経験は?」 とか聞かれたときに経験0だと恥ずかしい。
そう、僕はその時の為に小説を書いているのだ。胸を張って経験あります、と言うために。
(その計画今暗礁に乗り上げてるじゃんとか言うなしばくぞ)
まあ確かに、我が【文芸部に入るためになんか凄え小説書いて先輩の度肝抜いてやろうproject】、
通称【プロジェクト・dogimo】はこのままでは先行きが不安である。
何か良い題材はないものか…
うーん、さっきは自分の理想の高校生を書いて失敗したから、趣向を凝らしてこんなのはどうだろう。