戦闘狂とめんどくさがり屋Ⅱ
はい、短編の続きみたいなものですかね。まあ、適当なんですが。
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ただの侍、などとは言わない。
「よお、クソ侍。武闘祭以来だな」
「これはこれは、ヴェルディ殿。息災か?」
「ああ、この通りよ」
侍の名はミズキ。そして対面する男の名はヴェルディ。何の因果か、彼らは砂塵舞う、砂の国、マグナ公国にてその剣呑たる雰囲気をぶつけていた。
「で、何でここに居んだよ?」
「拙者は放浪の身でな」
そう言う其方は?
ミズキがそう尋ねると、ヴェルディは溜息を吐いたが、仕方がないと言った様子で答える。
「また依頼だ。どこで聞きつけたんだか、オレに依頼を持ちかけてきやがったのさ」
「ふむ、依頼主は?」
「まさかの公だ」
公。つまりはこの国の元首。
「それまた大層なお方から依頼を受けたものだ」
「だから、報酬もバカみてぇにでけぇ」
「ここは黄金の大地とも呼ばれてるからの」
「まあ、今代のマグナ公は太っ腹ってこった」
今代の。
この言葉から分かる通り、マグナ公国は新興国家ではない。それなりの歴史のある国だ。
「して、此度の依頼は?」
ミズキが興味本位からか、そう尋ねると、ヴェルディは訝しげな顔をしながら、ミズキの顔を見遣る。
「……お前、オレの依頼に首突っ込むなよ?」
武闘祭での出来事を思い出したのか、ヴェルディは牽制の言葉を吐く。ただ、ミズキはそれをはは、と微笑し、のらりくらりとはぐらかす。
「今回のはきなくせぇ。どうにも魔導武器ってんじゃ収まりが効かねぇ」
ヴェルディの言葉にミズキはほう、と反応を返す。ただの量産型の魔導武器でも厄介だと言うのに、と、ミズキは武闘祭の件でよく理解していた。
「ほら、テメェが関わるもんでもねぇ。今回は首を突っ込んでくるんじゃねぇ」
ヴェルディはそう言うと、しっしっ、と手を振ってどこかに行くように促す。ミズキもここはヴェルディに従っておく。
「……ほう、あれ以上か」
カチャ、と自然にミズキの手が刀に向いた。
「剣を握るものとしては……」
ニタリとミズキは不気味な笑みを作る。その笑みを見るものは誰もいない。もしヴェルディが見ていようものなら、気味の悪い、と評しただろう。
「面倒な相手だな」
ミズキが去った後、ヴェルディは今一度、依頼を確認する。
打倒、砂漠の騎士。
それが今回の依頼だ。もちろんヴェルディは負けるつもりはないが、ただ、彼の中で一つのことが彼のやる気を削っていく。
「はあ、今回は派手な戦いになりそうだな」
ヴェルディは生粋の面倒くさがり屋だ。
武人というものは戦いに愉しみを見出すのだ、などと言われれば、大方のものがそのようであるためにヴェルディは否定しない。ただ、だからこそ自分は武人などではない、と彼は語る。
そもそもにして、最強などというのも欲しいものでもなかった。ただ、戦うという行為をする上で強くなることが面倒が減ることだと、当時のヴェルディは信じて疑わなかったのだ。
そしていつしか最強と呼ばれ、傭兵をしていることから依頼が増えるとも思わなかったのだ。
「ったく、何で禁忌武具を持ってんだよ」
禁忌武具。それはあまりの脅威と、その絶大な効果から、複製を禁止され、国家機密として地下に封印されるべき魔導武器。いや、これに関して言えばもはや、魔導兵器と言った方が良いのかもしれない。
それ一つで、戦争を終わらせることのできる究極の武器。はっきり言って仕舞えば、抑止力ともいえる。
絶大な力は戦争を抑止するのだとは、よく言ったものだ。
だが、その性質ゆえに、たかだか個人が禁忌武具を持つことはあり得ないはずなのだ。
「アーサー・デザートム、か。依頼はソイツの殺害と、禁忌武具の回収……」
最強と名高いヴェルディでも流石に尻込みする。と言っても、前述した通り、負けるという方向にではなく、面倒だという方向でだ。
「まず、何処にいるのかね。砂漠の騎士王は」
ヴェルディは渋々と言った様子で、聞き込みを始めた。
「すまん」
彼が最初に聞き込みを行うのは、果物屋の露店を開いている三十代ほどの男性だ。
「ん?何だい、今日は……」
男はそのままに並んでいるものを持ち上げて紹介しようとするが、ヴェルディは言葉を差し込んだ。
「砂漠の騎士、アーサー・デザートムについて何か知ってるか?」
「……ん?ああ、アーサーか。全身甲冑でよくやるぜ。むれねぇのかね?」
「知ってるのか?」
「知ってるも何もこの国じゃ有名人だ。と言っても俺が見たのは一度だがな」
「それは何処で」
「……何処でって言われたら、確かありゃあマグナ四世の墓跡付近だったはずだ。あそこらはエルバ帝国からの商業キャラバンの通り道から外れてるから、行くのは結構大変だぞ」
何せ、道が整備されてねぇ。
男性がそういうが、それはヴェルディにとって大した問題でもない。確かに面倒だが。
「行くのかい?」
「まあ、依頼だからな」
「そろそろ日没だ。魔獣たちも活発になる」
魔獣は夜行性の凶暴な獣のことを言う。ただの獣と違うのは力の強さだ。常人が魔獣と行き合えば、まず生きて帰ることは不可能とされる。
それは傭兵でも変わりはない。
「悪いことは言わねぇ。明日、日が出てから行くこった」
「こう見えてオレはメンドウなことは先に片付けておくタイプなんでな」
ヴェルディは男の忠告を無視して、行ってしまった。
「……ま、俺は関係ねぇか」
そう呟いて、店主は仕事に戻った。
ヴェルディがマグナ四世の墓跡に向かう道中は足場も悪く、魔獣も多いと散々なものだった。
「ま、今回は人混みというわけでもねぇし、魔法使えば良いか」
ヴェルディがそう呟いた。
本来であればヴェルディと言えば魔法。などと呼ばれるほどではないが、それでもヴェルディには魔法があってこそというところがある。魔法がなくとも最強ではあるのだが、魔法が有ればより強いと言ったようなものだ。
「フライ」
そう一言だけヴェルディが唱えると、フワリとヴェルディの足が地面から離れて、体が空中に浮かぶ。
そして五分ほど移動すると、マグナ四世の墓跡の前にたどり着く。巨大な神殿のようにも思えるが、ヴェルディにはその価値だとかは分からない。
「ま、すげぇんだろうな」
そう呟いて、下を見下ろす。
確かに、居た。黒い全身甲冑の騎士。赤いマントを風にたなびかせる、荘厳な騎士が仁王立ちしている。
「小手調べだ。メテオ」
ヴェルディは魔法を唱える。完全に不意打ちだ。だが、ヴェルディはこれで倒せるなどと思っていない。
メテオは広範囲にわたる炎と土の複合魔法。流石に、ヴェルディもコントロールして墓跡には当たらないようにする。
砂塵が晴れると、甲冑の黒騎士はそこに仁王立ちを続けている。
グルリと、その顔がヴェルディの方向へと向けられる。
「流石……」
ヴェルディも感嘆の言葉を漏らした。
それは黒騎士、というよりも、その彼が握る禁忌武具に向けられたものであった。
黒騎士、アーサーは腕を振るう。
ヴェルディは届くわけがないと思っていたが、危険を感じ取り透かさずに剣を上段で構える。
ミシリ、と重さの乗った攻撃がヴェルディを襲った。
「ぐおぉおお……!」
ヴェルディはその力に押し負けて、地面に叩き落とされる。
「ぺっ……」
口の中に入った砂を吐き出しながら、ヴェルディは立ち上がる。
まずったな。
彼はそう思考した。剣での戦いにおいてまともに剣をぶつけ合ってはならないのだと、彼は考えている。刃こぼれする要因になり、それで敵を倒し損ねたら。そんなものだ。
アーサーはそんな瞬間にも詰め寄ってくる。ただ、その動きは。
「遅い!」
そう叫びながら、ヴェルディは自身の剣でアーサーの胴を突く。
ガキィィイン!
そんな音を鳴らしながら、アーサーは後ろに飛んでいき、両の足でしかと着地する。
「クソ、その甲冑もなかなかどうして、良いものだな」
ヴェルディの剣も中々の業物ではあるのだが、それを防いでしまうアーサーの甲冑は相当なものと言える。
ヴェルディの剣の技術が足りていないと言うわけではない。
「……聞こう、貴様の名は」
ここに来て、初めてアーサーは言葉を口にした。その声は兜の中で反響しているのか、くぐもっている。
「オレはヴェルディだ」
「ほう、貴様が最強と名高いヴェルディか」
まるで挑発のようにアーサーはそう口にした。
「では貴様を倒せば、吾が最強ということだな」
「吐かせ」
ヴェルディはそう言うと、その闘気を洗練されたものへと変えていく。
先程までのまばらなものとは違う。
正しく、最強の名にふさわしい。もしアーサーに、甲冑と、禁忌武具が無ければすぐにでも負けていただろう。
「来い!」
その声がアーサーから放たれた瞬間に、ヴェルディも駆け出す。その速度は人間を超えている。
一撃。
ガキィィイン!
先ほどと似たような音がした。アーサーは反応ができない。
ザクッ!
二撃目。
アーサーの鎧の節目から、ヴェルディの剣が突き刺さる。
「ぐおっ」
そんな呻き声が漏れる。アーサーは剣身の見えない禁忌武具を横に振るう。ヴェルディも咄嗟に剣を縦に構える。
ギャリギャリギャリィ!
そんな音を立てながら、ぶつかる所から火花が散る。
「ふんっ!」
そして、アーサーは横に剣を振り切った。
ただ、それを受け流していたヴェルディが高速でアーサーの懐に迫っていた。
「幾ら刀身が見えなくとも、懐に潜っちまえば関係ねぇ」
そう言ってアーサーの喉元に渾身の突きを放つ。
「ガッ……!ゴフッ、コヒュー」
そしてヴェルディはそのままに横に切り払い一回転して、アーサーの首を切り上げる。
剣を鞘に仕舞い込んでから、空に浮いたアーサーの首をしっかりと掴む。
そして、剥き出しのままの禁忌武具の回収も忘れずに行う。
「成る程な……」
禁忌武具を手にしたことで、ヴェルディはその正体を理解する。
禁忌武具の正体はXカリバー。
秘匿のXと、無限のX。その力を持っていたのだ。
「ま、こいつは確かに危ねえな」
そう呟いて、ヴェルディは依頼の終わりを確認する。
「今回はあのクソ侍、関わんなかったな」
別に何を思うわけでもないが、彼はそう口にした。
お読みいただきありがとうございます。