漫才師のお仕事・その1「桃太郎」
ボケ役とツッコミ役が次々と入れ替わる新感覚漫才コントの決定版!
ボケ「いや~、最近めっきり寒くなりましたね。こうも寒いと、無性に昔話に出てくる桃太郎の話なんて語りたくなっちゃうよね~」
ツッコミ「それはないっ! どうもありがとうございましたー」
ツッコミ役がボケ役へとツッコミをし、頭を下げて幕内際へ下がろうとする。ボケ役が慌てて腕を取り引き止める。
ボケ「なんで始まって5秒もしてないのに前振り全否定した挙句、仕事終わった感顔に出して帰ろうとしてるんだよ。お前は神か仏か、タピオカブームで暴利を貪る露天商か何かか!」
ボケ役がツッコミ役に突っ込む。
ツッコミ「いや、僕ね、ツッコミっていうお仕事の真っ最中なんですよ。貴方もいい加減に仕事したらどないです?」
ボケ「いやいや、アンタだけじゃなく、私だってちゃんと『ボケる』っていう仕事しているからね! なに、人がサボってるみたいな言い方してくれてんのさ!」
ツッコミ「おじいちゃん、ご飯はさっきあげたでしょ?」
ボケ「いや、それはホンマもんのボケやないかいっ! って、なんでさっきからツッコミ役のアンタがボケるんだよ! 私から仕事盗らんとってぇ~な」
ツッコミ「だがしかし、断らない!」
ボケ「なら、早ようせいやっ!」
再びボケ役がツッコミ役にツッコミを入れる。
ツッコミ「で、何の話やったっけ?」
ボケ「いやな、だから……なんやったっけ? はははっ」
笑って誤魔化し、切り抜けようとするボケ役。
ツッコミ「アンタも、ちゃんと台本どおりに小芝居やりなさいよ! 自分、金もろうとるプロちゃうんかいっ!!」
ボケ「いやいや、芸人自ら台本とか小芝居とか、月の収入額とか口にしたらアカンでしょ」
ツッコミ「そやそや、ところでアンタ、先月の収入なんぼやったん?」
ボケ「コンビなんだから貴方と同額に決まってるでしょうが!」
ツッコミ「……えっ?」
ボケ「へっ?」
ツッコミ役の真顔に驚きを隠せないボケ役。
ツッコミ「あっ、あーっ。そやね。で、ホンマのところアンタなんぼやったん? 私もそれ聞いて話合わせるとするからな」
ボケ「それ本人に直接言うたら、アカン奴やで!」
ツッコミ「かまへんかまへん。バレなかったら、平気や」
ボケ「俺があぁぁぁぁ、その張本人なんやあぁぁぁぁっ!!」
ツッコミ「…………ああああああ、ホンマや! じゃ、今のは聞かんかったことにしてーな」
ボケ「……ちっ。今回だけやぞ?」
ツッコミ「分かってる分かってる。アイツよりも、倍もろうてるなんて口が裂けても言えへんわ」
ボケ「言うとるやないけえぇぇぇぇぇ」
ツッコミ役の態度にぶちぎれるボケ役。
ツッコミ「あっ、ホンマやな」
ボケ「なんで急にアッサリとした態度はじめたん?」
ツッコミ「いや、そろそろこのネタ飽きてきてん」
ボケ「それもウチらが言うたら、一番アカン奴やぁぁぁぁ」
ボケ役が更にツッコミ役にツッコミを入れる。
ツッコミ「ま、ええやないの。で、なにお前、桃太郎の話知ってんの?」
ボケ「何でコイツ、強引に軌道修正し始めたんや……。ああ、知ってるわ。というか、日本人誰でも知てんで」
ツッコミ「そうなんか? じゃあ、チョロっとおっちゃんに話してみてや?」
ボケ「一体どんな前振りの仕方やねんな。まずな、昔々あるところにお爺さんとお婆さんがいたんや」
ツッコミ「そのお爺さんとお婆さん、今なにしてんの?」
ボケ「早い早い! ツッコミが早すぎる。それに今なにしてるって、昔々や言うてるんやからきっと今頃は土の下におるわ! (しみじみとした口調で)ある意味で……最近流行の仮想通貨と同じや」
ツッコミ「はぁっ?」
素の反応を示すツッコミ役。
ボケ「い、いやだからな、昔は土葬が主やんか? だから『火葬』と『仮想』とをかけた斬新なボケという……なんで、ボケ役の俺が説明してんねん!」
ツッコミ「あっ、あーっ! そっかそっか……お前、もっと頑張れよぉ~(語尾アゲアゲ)」
ボケ「何で他人事やねんな」
ツッコミ「お前やったら、もしかすると養成所に入れるかもしれへんでっ!」
ツッコミ役がサムズアップしてボケ役に詰め寄る。
ボケ「あんなもん、金出せば誰でも入れるねんっ!」
ツッコミ「……あんまり養成所とか事務所の悪口言うたらアカンで。自分、社会的に消されてまうど」
ボケ「……わかっとる。業界から干されるのだけは怖いからな。ほな、消される前に話戻すとするわ。それでな、お爺さんは山へシバかれに、お婆さんは川へ流されにいきました……」
ツッコミ「結局、ただのドM性癖のジジイと、水難事故にあったババアの話じゃねぇか!」
二人「どうもありがとうございましたー」
二人で揃って頭を下げる。
審査員「本ネタおもろなっ! タイトルの桃太郎どこに旅に出てん!?」
審査員から容赦のない辛辣なツッコミをされて終わり。